《医師監修》憂うつで眠れない。臨床内科専門医に聞く、ウツウツをしずめて眠る漢方薬の役割とは

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不安や悩みが深い、憂うつな気分がつのるとき、なかなか寝つけないことがあります。「睡眠薬を飲むのは避けたいけれど、安眠グッズでは眠る自信がない。漢方薬なら体に優しいのでは!?」という話しをよく耳にしますが、西洋薬と漢方薬の働きの違いや種類など、実のところはどうなのでしょうか。

臨床内科専門医で、西洋医学と東洋医学の両面から治療を行う正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長に、詳しいお話しを聞いてみました。

イライラ、ウツウツすると、興奮モードになって寝つけない

――精神面が不眠に影響するのは、どうしてでしょうか。

正木医師 睡眠には、呼吸や体温、心臓の拍動など、体の機能を調整する「自律神経」の働きが関係しています。自律神経とは、自分の意思ではコントロールできないもので、日中や活動時、興奮した時に活発になる「交感神経」と、夜間や休息時、リラックス時に働く「副交感神経」の2種類があります。

寝る前に「副交感神経」が優位になると、質の高い睡眠を得ることができます。ですが、イライラや緊張感、不安感が強い場合は、神経が高ぶっているという表現をよくしますが、実のところ、「交感神経」が優位な状態です。

交感神経が優位だと体が活動状態になるので、体温や血圧が上がって寝つきは悪くなり、眠りも浅く、途中で目覚めやすいということもあります。朝起きるとぼうっとしたり、疲れた感じがするでしょう。

――不眠で内科を訪れた場合、どのような治療をするのでしょうか。

正木医師 まず、患者さんの症状を聞いて、必要に応じて検査などをして、なにか病気が隠れていないかを診察します。病気がないようであれば、思い当たる原因をお尋ねし、生活習慣を確認します。

そのうえで、まずは2週間ほど、原因の解消や生活習慣を見直してもらいます。改善しない場合は、問診で症状に合うように、睡眠導入剤や睡眠薬、また、不安を鎮め、筋肉の緊張をほぐして眠気を催す精神安定剤などを選ぶ、組み合わせるなどして処方する場合があります。

西洋薬は薬の助けで眠り、漢方薬は体質の改善をはかる

――眠りの質を改善するために漢方薬を試したいという人は多いようですが、西洋薬とはどのような違いがあるのですか。

正木医師 西洋薬は、薬の助けで眠りを促します。「即効性はあるけれども2~4時間で効果が薄れる」タイプから、「服用後1~3時間でもっとも効き、6~10時間で効果が薄れる」ものまで、さまざまな種類があります。

漢方薬も、西洋薬と同様に問診をもとに処方しますが、漢方薬の場合は服用するとすぐに眠くなるわけではありません。不眠の原因となっている不調を改善し、自然な眠りのサイクルが身につくよう助けるものとされています。毎日決められた回数を服用して、不眠が解消するのを目指しましょう。

漢方薬は、即効性を求めるのではなく、体質を改善して寝られるようになりたい、と考える人に向いていると言えるでしょう。

漢方薬は、眠れない原因や体質、ほかの症状も考えて選ぶ

――では漢方薬は、どのように選ばれるのでしょうか。

正木医師 原因と体質に注目します。原因では、「心身の疲労がもとで眠れないのか」、「ストレスによる興奮が強いのか」、「不眠以外の症状はないか」などを考慮します。

次に、体質や症状を判断する「陰陽(いんよう)」や、体力を判断する「虚実(きょじつ)」、また、「気・血(けつ)・水(すい)」のめぐりが滞っていないかなどをもとにして、心身の状態を表す「証(しょう)」を診断します。その証によって、適切な漢方薬を選びます。

――不眠対策では、具体的にどのような漢方薬があるのでしょうか。

正木医師 不眠を訴える人に処方する主な漢方薬には、次の種類があります。どれもドラッグストアや薬局で市販もされています。

(1)加味帰碑湯(かみきひとう)

滋養強壮作用と精神を安定させる作用のある「帰脾湯(きひとう)」に、「柴胡(さいこ)」と「山梔子(さんしし)」という生薬を加えて鎮静作用を強くした漢方薬です。不安や緊張、イライラ感をしずめて、寝つきをよくします。

東洋医学で、「陰証」と呼ぶ、新陳代謝が衰えて体温が低いタイプの人、また、「虚証」と呼んで体力や気力が低下しているタイプの人向きです。落ち込んで食欲がない、熟睡できずに寝ている途中でよく目が覚める、貧血気味ですっきりしないなどと感じる人に適していると言えるでしょう。

(2)抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

神経の高ぶりを抑えて筋肉の緊張を和らげる「抑肝散(よくかんさん)」に、気分を落ち着かせる「陳皮(ちんぴ)」と「半夏(はんげ)」などを加えた、9種類の生薬が配合されています。

イライラ感が強い、怒りがある、ストレスや不安で食欲がない、興奮して眠れない人に適しています。健胃作用のある生薬が配合されているので、胃腸の活動が弱いタイプの人にも用います。

(3)柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

解熱鎮痛作用を持つ「柴胡(さいこ)」を中心に、興奮した神経をしずめて、精神を安定させる「竜骨(りゅうこつ)」や「牡蛎(ぼれい)」など、メーカーによって10~11種類の生薬が配合されています。

体力や気力があって、憂うつや不安感があり、動悸、便秘、高血圧のタイプの人、また更年期障害の人にも向いています。些細なことが気になってイライラする、ストレスの認識度合いが強くてなかなか寝つけない人に適していると言えます。

――これらの漢方薬を服用する際に、気を付ける点はありますか。

正木医師 「漢方薬には副作用がないのですよね」と患者さんに聞かれることがありますが、漢方薬でも西洋薬でも、薬の持つ性質や個人の体質などによって副作用は起こりえます。

漢方薬は、副作用の程度や頻度は少ないと言われていますが、起こらないわけではないので注意してください。アレルギー反応、食欲が落ちる、ほてる、頻尿(ひんにょう)、めまいなどを起こすケースもあります。

また、西洋薬の睡眠薬は常習性が心配されますが、依存性がない種類も多く、日中ぼんやりする、頭重感があるなどの副作用は、作用時間や薬効の弱い薬剤を選んでできるだけ防ぐこともできます。
 
病院で処方された薬は、医師や薬剤師の指示に沿った分量を、市販の薬は説明書の用法と用量に沿って服用しましょう。2週間程度服用しても眠れない状態が続くなどで効果がない、ほかの不調が現れたなどの場合は、服用を中止して医師か薬剤師に相談してください。

精神不安や緊張がある、興奮気味だと、自律神経のバランスが乱れて熟睡できない状況をまねくということです。漢方薬は、副作用がなさそうなどという間違ったイメージで選ぶのではなく、睡眠の質を高めるために、精神的な不調から改善したいときにチョイスするべきだと言えそうです。

取材・文  海野愛子/ユンブル

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取材協力・監修
正木初美氏。日本臨床内科医会専門医、大阪府内科医会理事、日本内科学会認定医、日本医師会認定スポーツ医、日本医師会認定産業医、正木クリニック院長。内科、リハビリテーション科とともに、漢方治療、更年期外来、禁煙外来を行っている。
正木クリニック:大阪府大阪市生野区桃谷2-18-9
http://masaki-clinic.net/wp/

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