《医師監修》脳疲労の医学博士が教える。記憶力を鍛える方法

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40歳を過ぎて中年を自覚しはじめたころから、テレビに出ているタレントの名前を忘れる、なぜこの部屋に来たのか忘れたなど、「なんだかド忘れが多くなってきた」と嘆く人はとても多いようです。

そこで、脳疲労の対策や脳の活性化を提唱する大阪市立大学医学部特任教授で東京疲労・睡眠クリニック(東京都港区)院長、また、ベストセラーの『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)の著者でもある梶本修身(かじもと・おさみ)医師に、ド忘れを少なくする方法についてお話を聞いてみました。

重要な情報は、脳の海馬から大脳皮質へ送信、保存される

記憶にはいくつかの種類があり、まず時間軸で見ると、「短期記憶」「長期記憶」に分類することができるそうです。梶本医師は、それらについてこう説明します。

「さっき食べたおかずや朝に見た天気予報など、短期記憶、つまり短期的な情報を一時的に記憶するのが、脳の『海馬(かいば)』という部分です。脳の真ん中あたりにあって、人の手の小指ぐらいの大きさでタツノオトシゴに似ているため、海馬と呼ばれています。

海馬は、ここ数日間で見たもの聞いたことなど、大量に情報をインプットしますが、すべてを長く覚えているわけではありません。『これは重要だ』と判断された情報を『大脳皮質』という脳の表層部分に移し、『長期記憶』として保存します」

「繰り返し」と「喜怒哀楽を伴った」情報は思い出しやすい

では、海馬はどのようにして情報の重要性を判別するのでしょうか。

「繰り返しインプットされる内容や喜怒哀楽の感動を伴った情報ほど、『重要』と判断されることが脳科学的に分かっています」と梶本医師。

そう言えば、さっきメガネを置いた場所は忘れても、10年ほど前のうれしかったできごと、悲しかった体験は覚えています。次に、梶本医師は、記憶を「質」で分けて説明を続けます。

「いつの間にか得た一般知識を『意味記憶』、個人的な経験や感動、感情が伴う情報を『エピソード記憶』と呼びます。

犬のチワワを例にとると、『チワワとは体が小さな犬種で目が大きい』という一般的な情報は意味記憶であり、老化してもその記憶は維持されます。

一方、『小学生のときにチワワを飼っていて、家族といっしょに海へ行った。とても楽しかった』といった、5W1H、すなわち、いつ、だれが、どこで、なにを、なぜ、どのようにといった付帯情報をもつ記憶がエピソード記憶です。

エピソード記憶は、意味記憶に比べて忘れやすいのが特徴です。ただし、繰り返し思い出すことや感情を伴わせることで記憶は強化されます。この場合、チワワを街で見かけるたびに楽しかった思い出が想起され、さらにエピソード記憶は深く刻まれることになります」

たしかに思いあたります。どうやら、このごろぱっと出てこないタレントの名前は、脳の海馬が重要な情報ではないと判断したのかもしれません。

記憶の鍵を握るのは「ワーキングメモリ」

ここで梶本医師に、どうすればエピソード記憶が強化されるのか、また、ド忘れを防ぐことができるのかを教えてもらいましょう。

「人は作業を効率化させるため、短期記憶や長期記憶の中から必要な情報をいまの思考、行動に結びつけます。こういうことができる脳の力を『ワーキングメモリ(作業記憶)』と呼びます。脳のあちこちから集めた情報を一時的に整理して書き出す黒板をイメージしてください。

例えば、買い物で2日分のメニューと料理の手順を考えながら、必要な素材を忘れものなく買うといった力です。ワーキングメモリは脳の前頭連合野という部位が担っていますが、これが優れた人ほど短時間の間に必要な情報を数多く取り出し、整理して関連情報を結びつけることができるため、結果として海馬での短期記憶を精緻化することができます。

そうすると、情報を安定して長期記憶に誘導できて、また、行動においても無駄の少ない効率的な処理が可能となるのです」

加齢とともに記憶力が衰えることについて、梶本医師は、「短期記憶も長期記憶も年齢とともに機能が低下しますが、それを補う鍵はワーキングメモリにあります」と話します。

「ワーキングメモリをうまく働かせることができれば、あらかじめ無駄な情報をカットして本当に必要な情報だけを記憶することができます。

また、ワーキングメモリは、効率よく情報を記憶させるために、『記憶のタグつけ』という作業を行っています。例えば、料理番組を見て麻婆豆腐の作り方をインプットするとき、『豆腐』、『ゴマ油』といった長期記憶にある既知の情報タグに、新たに得た『麻婆豆腐』のタグをひもづけておくといったことです。これで関連ネットワークの中で記憶され、あとから連想によって記憶を再生しやすくなります」

感動が多いほどワーキングメモリは鍛えられる

さらに梶本医師は、「情報に感情をタグ付けしておくと、長期記憶に深く刻むことができる」と言います。

「実際に調理したときに、『美味しかった!』とか、『分量を間違えて娘にまずいと言われた、残念』などの感情の情報がタグとして付くと、記憶はさらに強化されます。

感情は脳の扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる海馬に近い部位が担っていることもあり、インプット時に喜怒哀楽の感情タグが付けられた記憶は、思い出す際に非常に重要な連想タグになるのです。
 
つまり、感動が多い日常であるほどワーキングメモリが鍛えられ、記憶力は強化されると言えるわけです。日頃から多様なジャンルの趣味など、多くの情報にアンテナを張ってさまざまな世代の人とコミュニケーションをとることが有用となるでしょう」(梶本医師)

趣味が多いと、新しい情報に触れてわくわくする場面が増えます。異業種の人や、どこのどなたか知らない人と話す機会があると、未知の情報や予想外のリアクションに刺激を受けてワーキングメモリを鍛えることができそうです。

最後に梶本医師は、脳の働きについてこうアドバイスを加えます。

「多忙で睡眠不足だ、体調が悪い、悩みが多くて憂うつな気分が続くなどであれば、脳はかなり疲労しています。必然的にワーキングメモリも海馬の記憶力も衰えますから、その場合はまず、不調を改善しましょう」

無意識に起こっていた脳のできごとを、記憶の種類、海馬の働き、ワーキングメモリ、記憶のタグつけなど、脳科学の観点で理解することができました。こういった知識を得て脳の力への意識を高めるだけでも、ド忘れを防げそうな気がします。そして、たくさんの感動がある人生を送りたいものです。

取材・文 阪川夕輝/ユンブル


梶本修身先生

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↑10万部ベストセラーの『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)

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↑梶本修身医師の最新刊『すべての疲労は脳が原因2 超実践編』(集英社新書)

取材協力・監修:梶本修身氏。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授。東京疲労・睡眠クリニック院長。医学博士。国家プロジェクトとしての疲労対策の研究を続ける。著書に、『すべての疲労は脳が原因2 超実践編』、『すべての疲労は脳が原因』(ともに集英社新書)、『仕事がはかどる! 超高速脳のつくり方』(宝島社)ほか。『林修の今でしょ講座』(テレビ朝日)、『助けて! きわめびと』(NHK)、『この差って何ですか?』(TBSテレビ)ほかメディアに多数出演。睡眠と疲労に関する新常識の提案、わかりやすい解説で知られる。
東京疲労・睡眠クリニック:東京都港区新橋1-15-7 新橋NFビル3F
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