≪薬剤師監修≫「もの忘れ」対策に期待できる漢方薬とは?

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認知症の治療に用いる西洋薬は2017年3月現在、日本国内では医師の診察によって処方されるものがいくつかありますが、市販はされていません。ただし、古くからもの忘れや認知症の対策とされる漢方薬は数種類が市販されています。そこで、薬剤師で大阪府薬剤師会理事の近藤直緒美さんに詳しいお話を聞きました。

複数の症状を脳と体全体でとらえて、体質別に選ぶ

まず、もの忘れや認知症に関する薬の概要について、近藤さんは次のように話します。

「いまはまだ、医師による処方薬や漢方薬を問わず、認知症そのものを治す薬はありません。ですが、漢方薬では、もの忘れとそれにともなう『周辺症状』、例えば、不眠、めまい、頭痛、イライラ、ウツウツ、高血圧など複数の症状を軽快させる種類が、処方薬としても市販薬としてもいくつかあります」

漢方薬は、一つの症状だけではなく多くの不調に働きかける、体質によって選ぶとよいなどと聞きます。

「頭痛がするときは、めまいや肩こりを伴うことが多いでしょう。漢方では、それら全体をいまの不調として考えて、改善するように働きかけます。また、人によってやせ気味、体力がある、怒りっぽい、不安になりがちなど、体質や性質も違います。それらのタイプ別にも症状をとらえ、薬を選びます」と近藤さん。

そして、もの忘れや認知症対策の漢方薬について、近藤さんはこう伝えます。

「漢方の治療では、加齢現象の一つとしてとらえます。心当たりのある周辺症状に注目し、自分の体質別に選ぶとよいでしょう」

不眠やイライラ、不安など、もの忘れの周辺症状に注目して選ぶ

ではここで、もの忘れ対策に向く、市販の漢方薬とその特徴について近藤さんに挙げてもらいましょう。「これらは、アルツハイマー型と脳血管性の認知症への効果が期待されています」と近藤さん。

○抑肝散(よくかんさん)

特徴:医療機関で処方される認知症と周辺症状対策の代表的な漢方薬です。神経症、不眠症、子どもの夜泣きに対応し、自律神経を安定させるように働くことで知られています。

「肝」は「怒り、興奮」を表し、薬品名はそれを抑えるという由来があります。もの忘れに加え、イライラしやすい、怒りやすい、興奮しやすい、神経過敏、眠りにくいなどの精神的な症状が強い場合に用います。「アロパノール」など、生薬名とは別の製剤名の種類もあります。
体質:虚弱が著しい場合を除いて広く用いられます。
生薬:釣藤鈎(ちょうとうこう)・柴胡(さいこ)・川芎(せんきゅう)・当帰(とうき)・茯苓(ぶくりょう)・蒼朮(そうじゅつ)・甘草(かんぞう)

○抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

特徴:上記の抑肝散に、生薬の陳皮(ちんぴ。胃を丈夫にしておなかのガスを除くなど)と半夏(はんげ。せきやたん、ヒステリーを抑えるなど)を加えた漢方薬です。抑肝散と同じく、怒りなどの精神的諸症状への対応に加えて、胃腸が弱い人に向きます。
体質:体力が低下していて、胃腸が弱い人に。
生薬:釣藤鈎(ちょうとうこう)・柴胡(さいこ)・川芎(せんきゅう)・当帰(とうき)・茯苓(ぶくりょう)・蒼朮(そうじゅつ)・甘草(かんぞう)・陳皮(ちんぴ)・半夏(はんげ)

○釣藤散(ちょうとうさん)

特徴:上記の抑肝散に含まれる生薬の釣藤鈎(ちょうとうこう)がこの薬にも入っています。これは、精神安定や睡眠維持、脳の細胞を保護、脳の血流量の保持の働きがあるとされます。
中年期以降の神経症、慢性的な頭痛、めまい、のぼせ、肩こり、慢性胃炎、動脈硬化症、更年期障害にも向きます。
体質:高血圧の傾向にある人。
生薬:釣藤鈎(ちょうとうこう)・菊花(きくか)・石膏(せっこう)・麦門冬(ばくもんどう)・陳皮(ちんぴ)・半夏(はんげ)・ 茯苓(ぶくりょう)・ 防風(ぼうふう)・人参(にんじん)・生姜(しょうきょう)・甘草(かんぞう)

○黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

特徴:もの忘れの周辺症状で見られる血圧の上昇を抑え、頭痛、不安、ほてりやのぼせ、焦燥感がある、口内炎、鼻血、皮膚炎、不眠症などの傾向を抑えるように働きます。
体質:比較的体力があり(中等以上)、血圧が高め、顔が赤い、肌が赤くなりやすい、体の上部に熱がこもる人に。
生薬:黄連(おうれん)・黄芩(おうごん)・黄柏(おうばく)・山梔子(さんしし)

○八味地黄丸(はちみじおうがん)

特徴:中年以降、加齢とともに新陳代謝が衰えて、漢方でいう「腎」(腎臓だけではなく、副腎や膀胱、泌尿器、生殖器を含む総称)の不調に主に用いられます。
全身のけんたい感、夜中にトイレが多い、排尿障害、腰痛、下半身の脱力感やしびれ、手足の冷え、むくみ、口の渇き、耳鳴り、皮ふの乾燥、頭痛、肩こりなどの症状に作用します。
体質:体力にあまり自信がない人、血圧が高めの人に。
配合生薬:地黄(じおう)・ 山茱萸(さんしゅゆ)・山薬(さんやく)・沢瀉(たくしゃ)・ 茯苓(ぶくりょう) ・牡丹皮(ぼたんぴ)・ 桂皮(けいひ)・ 附子(ぶし)

○当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

特徴:当帰は抑肝散にも含まれている生薬で、「血(けつ。全身の組織や器官に栄養を運ぶもの、主に血液)」の巡りを促し、芍薬は末梢の血管の不全と水分バランスを整えて記憶学習障害の改善作用があるとされています。冷え、貧血、激しい疲労感、頭重感、めまい、肩こり、動悸、耳鳴りなどの症状に対応します。また、月経不順に用いられる薬としても知られています。
体質:汗をかきにくく、顔色が悪い人に。
生薬:当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・川芎(せんきゅう)・茯苓(ぶくりょう)・白朮(びゃくじゅつ)・沢瀉(たくしゃ)

○遠志(おんじ)

特徴:遠志は、「加味帰脾湯(かみきひとう)」や「帰脾湯(きひとう)」、「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」、「加味温胆湯(かみうんたんとう)」など、興奮を鎮めて精神安定作用があり、認知症や不眠対策とされる漢方薬に含まれる生薬です。
先ごろ、「単味生薬製剤(単一の生薬を水または有機溶媒で抽出したエキス)の製造に関するガイダンス」が策定されました。遠志はその一つとして、前述のように配合された漢方薬がある中で、単独でも医薬品としての販売が認可されました。2017年の4月から複数の医薬品メーカーより、「キオグッド」などの製剤名で薬局やドラッグストアで一般に販売される「OTC医薬品」として登場しています。
それら製剤のパッケージには「中年期以降のもの忘れの改善に」、「脳の記憶機能を活性化」などと明記してあります。糖尿病の検査値に影響を及ぼすことがあるので、血液検査のときには医師に、遠志を服用していることを伝えてください。
生薬:遠志
 
最後に近藤さんは、漢方薬の選び方について、こうアドバイスを加えます。

「もの忘れで悩むという主な症状に加え、『ほかにどんな症状がつらいか』、また『体質はどうか』をメモしておくなどして、最寄りの薬局の薬剤師に相談していただくと適切に選ぶことができるでしょう」

もの忘れや認知症対策に、これらの漢方薬を試してみるのも一つの方法かもしれません。漢方薬は、異変や症状を脳と体の全体でとらえて、体質ごとに適した種類を選びとろうということです。参考になさってください。

取材・文  藤井空/ユンブル

近藤氏
取材協力・監修
近藤直緒美氏。薬剤師。大阪府薬剤師会理事。なのはな薬局本店、真上(まかみ)店、ケアプランセンター(ともに大阪府高槻市)を運営する有限会社スターシップ代表取締役。
なのはな薬局:大阪府高槻市城北町1-4-18

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