≪医師監修≫疲労医学の第一人者が教える。すべての疲労の原因は「脳」にある!

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「ああ、疲れた」……。この言葉、日ごろからよく口をついて出ますが、ではその疲れとはどこから来るのでしょうか。一般に、肉体的な疲労は筋肉のダメージで、精神的な疲労は心の問題だ、夏バテや冬バテは環境による疲れだからどうしようもない……などと認識されていることが多いと思います。

しかしながら、大阪市立大学医学部特任教授で、東京疲労・睡眠クリニック(東京都港区)の梶本修身院長は、「体の疲れ、気の使い過ぎなどの精神的疲れ、また暑さ寒さなど環境による疲れは、それぞれ原因が別だと思い込んで、別のケアをしている人は多くいらっしゃいます。実はそれらの源は同じ、原因は一つです」と強調します。疲労の正体とセルフケアについて、詳しく聞いてみました。

運動による疲労の正体は、自律神経と脳のダメージ

体の疲労とは、激しい運動や歩き過ぎ、立ちっぱなしなどで起こる筋肉痛や頭重感、肩こり、腰痛などをイメージしていました。梶本医師は自らの研究チームで明らかにした結果から、次のように説明します。

「我々の実験で、ジョギングや自転車をこぐなどの運動を4時間継続しても、筋肉はほとんどダメージを受けないことが分かっています。

つまり、人がスポーツや体を使う仕事、通勤などで疲れを感じるのは、肉体が損傷しているからでもエネルギーが不足したからでもないということです。

では、いったいどこが疲れているのかと言うと、その答えは、『自律神経の中枢がある脳』にあります」

脳ですか。運動など身体的な負荷による疲れであっても、疲れているのは自律神経をコントロールしている脳だということでしょうか。

「そうです。ヒトの心拍や呼吸、体温、血圧、唾液や汗など、生きるための機能をコントロールしているのは自律神経です。その中枢は脳の『間脳』にある、『視床下部(ししょうかぶ)』と『前帯状回(ぜんたいじょうかい)』という部分にあります。

運動をすると徐々に心拍数が上がり、呼吸が速くなって体温の上昇を抑えるために汗をかくでしょう。それは自律神経の働きによります。心拍や呼吸、汗の量などは運動の強度や速度、体調に応じて秒より速い単位で調整を続けています。

例えば全力で長く走るなど激しい運動をしているとき、自律神経は呼吸や心拍を速め、体温を下げるために汗を出すなどして、フル回転で働いています。すると、自律神経の中枢がどっと疲れるわけです。

このメカニズムは、ストレスや悩み、緊張、不安といった精神的疲労を抱えている場合も、また、猛暑の中、発汗して体温調整をする場合も同じです」と梶本医師。

どの場合でも、自律神経が体を健康に保とうとして働く度合いが高い、また時間が長いほど、疲労困ぱいに陥るということです。

脳疲労とは、神経細胞がさびついている状態

では、自律神経を酷使したとき、脳では何が起こっているのでしょうか。梶本医師は、こう説明を続けます。

「自律神経の中枢の脳は神経細胞(ニューロン)でできていますが、自律神経が酷使されて酸素が大量に消費されると神経細胞で有害な活性酸素が発生し、細胞の組織がさびつくのです。いわゆる『酸化ストレス』にさらされて、やがて自律神経の機能がうまく果たせなくなります。これが『脳疲労』の状態です。

このとき、『体が疲れた、休め』というシグナルが、脳の知的機能を担う『前頭葉(ぜんとうよう)』の『眼窩前頭野(がんかぜんとうや)』という領域に送られて、疲労感として自覚することになります」

脳内では、疲労を起こしている部分と、疲労感を覚えている部分は別の領域だということです。

脳疲労の改善に最大有効なのは、良質な睡眠

次に、回復のためにはどうすればいいのでしょうか。

自律神経は24時間働いていますが、その活動がもっとも抑えられるのは睡眠中です。つまり、脳疲労を改善、予防するにあたって最大に有効な方法は、良質な睡眠だと言えます。

疲労感とは、『これ以上、自律神経を酷使しないで休息をとってくれ』というアラームです。素直にすぐに運動をやめる、ストレスを回避する、また夏バテや冬バテでは冷暖房を利用して体が休まる環境を作ってまずは休憩し、早めに睡眠をとってください」と梶本医師。

逆に考えると、眠気は脳疲労のサインだということでしょうか。梶本医師は、

「そうです。そのように意識を高めて、日中なら少しでも仮眠をとる、夜は少しでも早めに寝るようにしてください」とアドバイスをします。

そうすると、日中に眠気や疲労を感じたとき、仕事帰りに気分転換に飲み会に参加するとか、ジムに寄って筋トレをするといった行為はよくないのでしょうか。

「疲労に疲労を重ねることになるだけです。週末に温泉旅行に出かけることも、忙しいだけで疲れを倍増させるでしょう。気分転換になると感じるのは、やる気や充実感を覚えるように働く脳の前頭葉による錯覚です。本能的な疲労を隠しているのです。

休憩や睡眠をとらずに無理を続けていると、まず、防御的に情報処理量を減らそうとするために視野が狭くなって目が疲れます。また、自律神経が疲弊することで血流が悪くなり、頭痛や肩こり、腰痛、めまい、うつやイライラするなどの症状が出てきます。

これが『過労』の状態であり、さらに睡眠不足のまま働き続けると、動脈硬化から高血圧や心臓病、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病をまねくことになりかねません」と梶本医師は忠告します。

運動でも仕事でも、肉体的、精神的、夏バテ冬バテなどいろいろな場面で感じる疲れはすべて自律神経に原因があり、脳にある自律神経の中枢の細胞がさびている状態だということです。原因が一つであるからには対策も一つで、どのタイプの疲労であっても、良質な睡眠がもっとも改善につながる方法であることも分かりました。脳疲労をだましだまし過ごさずに、過労になる前に早めの対策をとりたいものです。

取材・文 海野愛子/ユンブル


梶本修身先生

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↑10万部ベストセラーの『すべての疲労は脳が原因』(梶本修身 集英社新書)

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↑梶本修身医師の最新刊『すべての疲労は脳が原因2 超実践編』(集英社新書)

取材協力・監修:梶本修身氏。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授。東京疲労・睡眠クリニック院長。医学博士。国家プロジェクトとしての疲労対策の研究を続ける。著書に、『すべての疲労は脳が原因2 超実践編』、『すべての疲労は脳が原因』(ともに集英社新書)、『仕事がはかどる! 超高速脳のつくり方』(宝島社)ほか。『林修の今でしょ! 講座』(テレビ朝日)、『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)、『助けて! きわめびと』(NHK)ほかメディアに多数出演。睡眠と疲労に関する新常識の提案、分かりやすい解説で知られる。
東京疲労・睡眠クリニック:東京都港区新橋1-15-7 新橋NFビル3F
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