鍋料理と言えば手軽に調理できてヘルシーなイメージがありますが、肥満症や糖尿病の食事療法に詳しい管理栄養士の西山和子さんは、「ぼんぼんと何でも放り込んでおなかいっぱいになるまで食べていると、ダシや具によって、またシメの食べ方によっては気づかないうちにかなりの高カロリーになります」と話します。そこで、「鍋を低カロリーでおいしく堪能する食べ方」について、具体的な具材をカロリー付きで教えてもらいました。
すき焼き、坦々鍋、みそ鍋は高カロリー
鍋ダイエットという言葉があるほど、鍋料理というだけで低カロリーで太りにくいと思っていましたが、西山さんは、こう注意を促します。
「鍋料理は使う食材によって多種多様なメニューに仕上げられるというメリットがあります。しかしそのためか、ダシはこってり、具は脂肪たっぷり、シメにごはんやめん類を2人前ペロリ、という人もいるようです」
さすがにその場合は、普段の食事よりも高カロリーになりそうです。ここで気をつけたいダシや具材について、西山さんは具体的に指摘をします。
「まず、すき焼きは高カロリーだということを覚えておきましょう。砂糖やみりんを使う甘いしょうゆタレに牛肉の脂が溶け合い、さらにツケダレには生卵、シメには脂がしみ込んだダシで煮るうどんを食べる、ということで、ごはんと一緒に食べると、肉の量にもよりますが、約800~1,200kcalになります。
次に、坦々鍋です。ラー油を加えた旨辛スープに脂身が多い豚バラ肉をがんがん入れ、シメにはお待ちかねのラーメンを1玉以上入れる人も多いのです。こちらも、約600~1,000kcalになるでしょう。ねりゴマを加えた坦々ゴマ鍋になると、さらにカロリーが高くなります。
また、一見ヘルシーなみそ鍋も注意してください。味が濃いので食欲が湧き、具の肉をたくさん食べる、シメの雑炊やうどんも食べやすいのでついおかわりをするパターンです。カロリーは、加えるみそが多いほど高くなります。カレー鍋も同じことが言えます」と西山さん。
動けなくなるまでおなかいっぱいに食べているシーンがリアルに浮かびます……。
おもち、シメの雑炊はかなりのカロリーオンになる
しかし、おいしい鍋料理はどうしても食べたくなります。カロリーを抑えながら食べるコツはあるのでしょうか。西山さんは次のようにアドバイスをします。
「もちろん食べ方を工夫すれば、おいしく食べることができます。すべての鍋で、『濃い味付けのダシを避ける』、『具を食べすぎない』、『シメのごはんやめんは少なめに』の3つのポイントをおさえておきましょう。
すき焼きなら、つけだれの生卵は1個までにして、肉をおかわりしない、シメのうどんは控えるようにしましょう。
坦々鍋、みそ鍋、カレー鍋は、具を豚バラ肉の代わりに脂身を取り除いた豚ロース肉にする、また、鶏のモモ肉やムネ肉は皮を取り除く、低カロリーな魚介類や豆腐を肉の代わりとして積極的に選ぶようにします。シメのラーメンやうどんは2~3人で1玉をシェアしましょう。
それに、鍋といえばこれだというぐらい定番の、おもちは1個で約150kcalあり、ごはん1/2膳分とほぼ同じです。さらに、ごはん1膳を半分の卵でといた雑炊なら約320kcalをオンして食べることになります。具の脂がしみこんだこってりダシで炊いて卵をのせた雑炊は、意外なほど高カロリーになるわけです。
もしも食べる量が足りないと思ったときは、白菜やもやし、キノコやコンニャクならいくらでもOKですから、どんどん鍋に入れて食べてください」
ダシの濃さ、具の質と量、シメの質と量。これらを気にしないで食べていると、「あっという間に1,000kcalを超えます」と西山さん。ぜひ覚えておきましょう。
すき焼きは湯豆腐の4倍! 鍋の種類別、1人前のカロリーとは
次に、鍋の種類別に、1人前のおおよそのカロリーを西山さんに挙げてもらいましょう。「具材と量によって大きく変わるため、参考までの数字です。ごはんやしめのうどんは含まないので、食べる場合は、先ほど紹介した情報を参考に、具材の質や量に応じて加算してください。」
すき焼き……約550 kcal
坦々ゴマ鍋……約500kcal
キムチ鍋……約440 kcal
みそ鍋……約360 kcal
鶏肉の水炊き鍋……約360 kcal
しゃぶしゃぶ……約320 kcal
魚介の寄せ鍋……約260 kcal
湯豆腐……約150 kcal
すき焼きは湯豆腐の4倍ほどあるのに驚きます。
霜降り肉はNG。低カロリーな魚介類を選ぶ
ここで西山さんに、低カロリーの鍋料理を作るコツを教えてもらいました。
「まず、ダシは濁らない透明なタイプが低カロリーだと覚えておき、湯豆腐、魚介の寄せ鍋や水炊きを選びましょう。これに、シイタケやエノキダケ、マイタケ、シメジなどのキノコ類、コンニャクやワカメなどの海藻、モヤシや白ネギ、ハクサイ、ダイコン、キクナやミズナなどの野菜をたっぷり入れて、これらから食べ始めましょう。
また、春雨やくずきりは原料が豆類やイモ類のデンプンなので、食べすぎるとカロリーは高くなります。ですから、低カロリーで腹持ちがいい糸コンニャク(シラタキ)を選びましょう。これは100gで約6kcalです。それに、キノコ類、野菜、海藻類、コンニャクは食物繊維が豊富で、腸内環境を整えます。
水炊きやしゃぶしゃぶのつけだれは、ポン酢やレモン汁がおすすめです。ゴマだれは量を多く使うほど高カロリーになります。
タンパク質には、豆腐、エビ、ホタテ、ハマグリ、白身魚のタラやサケなどが肉類より低カロリーなのでお勧めです。肉の場合は、脂身が多い霜降り牛肉ではなく赤味の多いものに、また豚バラ肉はモモ肉やロース肉に、鶏肉はムネ肉やササミにして必ず皮を取っておきます。鶏の皮は50gで約200kcalと驚くほど高カロリーです」
トマト鍋、豚とハクサイの蒸し鍋、おでん鍋
さらに西山さんに、お勧めの低カロリーな鍋メニューを挙げてもらいましょう。
「先に紹介した、湯豆腐、水炊きのほかに、トマト鍋、豚とハクサイの蒸し鍋、おでん鍋もいいでしょう。
トマト鍋は、トマト缶やトマトジュースと市販のコンソメスープのもとを使ってトマトダシを作ります。トマトの栄養分がとれて食べやすく、魚介類と相性がいいのが特徴です。シメにはごはん1/3膳を加えてチーズを加えるとリゾット風になり、1人前で約400kcalほどです。
豚とハクサイの蒸し鍋は、モヤシ、白菜、タマネギを鍋や大きくて深めのお皿に順に乗せ、その上に豚肉約60gを広げてトッピングをしましょう。鍋なら水100mlを加えてふたをして15分ほど中火にかけ、お皿ならふんわりラップをして電子レンジ(500W)で5分ほど温めます。肉に火が通ったらでき上がりです。ポン酢でいただきましょう。まったく油を使わずに蒸すだけですから、素材のうま味が溶け合ってヘルシーでおいしい一品になります。
おでん鍋は、具は低カロリーのダイコン、ニンジン、コンニャクに、ゆで卵、焼き豆腐でボリュームを出します。特にコンニャクは超低カロリーなので、量を気にせずに食べてもOKです」
どれも風邪をひいたときにもよさそうです。西山さんは、「そうです。これらは栄養のバランスがよくて体を温めること、またダイエットのためだけではなく、加熱して柔らかくしているので風邪や胃腸の調子が悪いとき、食欲がないとき、疲れているときなどにも適しています」とアドバイスを加えます。
どの鍋もおいしそうな響きがあるのですが、意外と知らない高カロリーな素材や食べ合わせには注意をしたいものです。野菜やキノコをたっぷり食べながら、鍋メニューを堪能しましょう。
取材・文 藤井空/ユンブル
西山和子氏。管理栄養士。糖尿病専門クリニックでの勤務経験から、糖尿病、生活習慣病、メタボリックシンドロームの患者さんを対象に、パーソナルな食事指導にあたる。『専門医が考えた 糖尿病に効く「腹やせ」レシピ』(福田正博 洋泉社)の監修担当。また、食生活に関する記事の執筆、監修多数。

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