《医師監修》「フレイル(高齢者の虚弱)」を知って、認知症を楽しく予防する

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2017年10月8日・9日に大阪で開催された「第31回日本臨床内科医学会」(医師と医療関係者が参加)の一環で、一般参加者を対象とした市民公開講座(主催:大阪府内科医会。会長・福田正博医師。事務局・大阪市中央区)の内容をお届けします。当サイトへ掲載させていただく経緯は、第1弾の《医師監修》うつ、睡眠障害、疲労……。『男性の更年期障害』を改善するには?の記事内にご紹介しています。合わせてご覧ください。

第31回 日本臨床内科医学会 レポート03 市民公開講座
坂根直樹医師 独立行政法人国立病院機構京都医療センター予防医学研究室室長

「人は『頭・足腰・気持ち』のうち、どこから弱ってくるのでしょうか。皆さんは、どのように人生を終えたいですか。ぽっくりですか、じっくりですか。隣に座っている人に、優しく聞いてみてください」。糖尿病がご専門の坂根医師の講演は、スタート時から聴衆の爆笑を誘います。解説を楽しく聞けるように、クイズやじゃんけんによる愉快な認知機能のチェックが織りまぜられ、350名超の一般の参加者が集う広い会場には終始歓声が響いていました。本文は、坂根医師によるお話しです。

健康寿命は中年期の過ごし方で決まる

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「第31回日本臨床内科医学会」での坂根医師による
講演のテーマは「楽しくできる認知症とフレイル予防」

糖尿病の治療の目的は延命ではなく、健康寿命を延ばそうということです。ヒトのライフサイクルとして、中年期の「肥満・運動不足・喫煙・飲酒・生きがい不足」は、「生活習慣病である糖尿病・高血圧・脂質異常症」へと進みます。次に「脳卒中・心筋梗塞(こうそく)・骨折」、さらには「要介護・寝たきり・認知症」に展開することになります。

このサイクルから、健康寿命とは、加齢に伴って生活習慣病を発症した時期から損なわれてくることがわかります。寿命まで少しでも自分らしい生活を送ることができるかどうかは、中年期の過ごし方によるのです。

いま、「3秒に1人が糖尿病と診断され、33分に1人が糖尿病が原因で透析を導入し、3時間に1人が糖尿病が原因で視覚を損なう」ということ、また、「糖尿病の場合は、そうでない場合と比べて、認知症になるリスクが2倍」というデータがあり、糖尿病と認知症は関わりが深いことがわかっています。

(本講演の前日である)10月8日は「糖をはかる日」であり、11月14日は「世界糖尿病デー」です。こういった日を設けて予防を啓蒙する必要があるほどに、糖尿病の人口は多いというわけです。これらのイベントを、生活習慣を見直すいい機会ととらえてください。

「フレイル」をチェックする項目5つ

フレイル」という言葉をご存知ですか。フレイルとは「虚弱」という意味ですが、高齢者の虚弱な状態を示す言葉だと考えてください。医療界ではいま、「フレイル」を研究して予防しようという動きがあります。

「健康・元気」な状態から「フレイル」を経ると、「寝たきり・要介護」となる可能性が高いことがわかっています。ですから、加齢に伴って、フレイルの状態にならないように予防をしてほしいのです。

「フレイルサイクル」とは、「食べものを飲み込めない嚥下(えんげ)障害→低栄養→筋量低下→動かない→食欲低下→低栄養」と悪循環に陥ることを言います。健康寿命を延ばすには、このサイクルに陥らないこと、このサイクルから脱出することがポイントとなります。

日常的に自分でできることとして、まず、フレイルになりやすい部屋を見直しましょう。「テレビの前にこたつを置き、こたつの上にリモコン、おかき、みかんがあり、座椅子がある部屋」では、座椅子に座るとなかなか動かないようになります。長年この生活を続けているとフレイルをまねきます。

また、「テレビを見る時間が長い人は糖尿病になりやすい」というデータがあります。テレビの視聴時間を減らすようにしましょう。

「フレイルの評価」には、次の5つがあります。当てはまる項目を数えてください。

体重減少(意図せず6カ月で2~3㎏以上)
筋力低下(利き手の握力が男性は26㎏未満、女性18㎏未満)
疲労感(理由がなく)
歩行速度の低下(毎秒1.0m以下・青信号を渡り切れない)
身体活動(軽い運動や体操、定期的なスポーツをしていない)

 

各1項目を1点として、該当が「0項目は健常」、「1~2項目はプレフレイル」、「3項目以上はフレイル」ととらえます。

認知症予防には、メタボや糖尿病にならないこと

認知症に関するデータを見てみましょう。「2013年の年代別認知症有病率」によると、85~89歳では41.4%、90~94歳で61%、95歳以上では79.5%となっています。

認知症を発症する危険性を予測する「認知症リスクスコア」は、「年齢✕家族歴✕心血管危険因子」で表せます。これから考えると、自分でできることとして、心血管危険因子である、心房細動、糖尿病、心臓病、高脂血症、高血圧、喫煙、脳卒中、肥満を解消すると認知症予防になることは明らかです。この因子を避けるには、中年期にメタボリック・シンドロームと糖尿病を予防することが重要になります。

認知症の原因は、脳にアミロイドβ(ベータ)というタンパク質が蓄積することとされて研究が進んでいます。血糖値(血液中の糖分の濃度)が高い状態だと、すい臓から分泌するインスリンの作用が悪くなってアミロイドβが蓄積し、アルツハイマー病を発症しやすいこと、また血管に障害が現れて脳血管性認知症になりやすいことがわかってきました。

認知症予防の歩く指標は1日5,000歩

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「毎日の歩数と健康指標」について説明する坂根医師

認知症になりやすい人は、高カロリーで高飽和脂肪酸が含まれる食べものが好きで、野菜、海草類、きのこ類、果物、魚介類が不足している傾向にあり、それらは内臓脂肪を溜める原因となります。一日に甘いものを食べても大丈夫な量は、自分の手の指でOKサインを作ったときの「O(オー)」の部分の大きさまでです。お菓子のこの分量は、もやし2袋、トマト3個分ぐらいのカロリーに相当します。

認知症を予防する日常の行動として、「声を出して新聞を読む」、「散歩をする」、「料理する。たまには違うものをつくる」、「元気をくれる人と会う」、「記録をつける(日記、体重、歩数、天気など)」などを実践しましょう。もしこれらが面倒でおっくうになると、認知症の予兆とみることもできます。

運動ではウォーキングが推しょうされますが、1日の歩数の健康指標は、「認知症の予防に5,000歩」、「糖尿病の予防には8,000歩」です。10分間歩くと約1,000歩ですから、50分~80分ほど歩こうということになります。また、歩きながら腕のストレッチをする、簡単な計算をするなど、2つのことを同時に行うことが脳の活性化の役に立ちます。

これらのことを実践して、健康寿命をキープする脳と体を作りましょう。

坂根医師の問いかけに、参加者が着席のまま愉快そうに次々と声を出して答える姿が印象に残りました。これらのことを、「しよう、しようと思いながらも、実際には行動できていない」、また、「できても3日ぐらい」、といった声が周囲からもれ聞こえてきました。筆者も同感です。」本講座では、フレイルとは何か、また、中年期に肥満、メタボ、糖尿病を避けることが認知症対策になることについて楽しく理解を深めることができました。

厚生労働省は数年前から、「高齢者の虚弱」である「フレイル」の対策に取り組んでおり、2018年からは本格的に始動するようです。坂根医師によると、「フレイル」と認知症の予防のために、自分ですぐにできることはいくつもあるとのことです。これを機にぜひ実践したいものです。

取材・文:阪河朝美/ユンブル  撮影:町田緑 稲葉友哉
協力:一般社団法人 大阪府内科医会

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坂根直樹氏:独立行政法人国立病院機構京都医療センター(旧国立京都病院)臨床研究センター予防医学研究室室長。自治医科大学医学部卒業。京都府立医科大学附属病院、神戸大学大学院医学系研究分子疫学(旧衛生学)助手等を経て、2003年より現職。専門は糖尿病。

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