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《医師監修》山中伸弥教授が語る。iPS細胞の現状と治療の現場での取り組みとは

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2017年10月8日・9日に大阪で開催された「第31回日本臨床内科医学会」(主催:大阪府内科医会。会長・福田正博医師。医師と医療関係者が参加)のレポートをお届けします。当サイトへ掲載させていただく経緯については、第1弾の《医師監修》うつ、睡眠障害、疲労……。『男性の更年期障害』を改善するには?の記事内にご紹介しています。合わせてご覧ください。

第31回 日本臨床内科医学会 レポート 04
山中伸弥教授 ノーベル生理学・医学賞受賞(2012年)。京都大学 iPS 細胞研究所所長・教授

同医学会の1日目、1,500人以上の内科医が集まる会場で、山中伸弥教授と、iPS細胞を人に応用する世界初の手術を行った高橋政代プロジェクトリーダーによる講演、並びに、主催者の大阪府内科医会の福田正博会長(同医学会の学会長)と泉岡利於副会長(実行委員長)による鼎談(ていだん)が開催されました。そこで、学会長のご許可を得て、当日の様子を特別にレポートさせていただくことができました。

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「第31回 日本臨床内科医学会」の講演後、学会長の福田正博医師から花束を受け取る山中教授。

父のC型肝炎を治すことができなかった

まず、山中教授の講演から始まりました。テーマは「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」。本文は山中教授によるお話しです。

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同医学会で講演する山中教授

わたしの父は東大阪市で町工場を経営していました。仕事中にけがをして、輸血をして肝炎になったのですが、わたしはそれをきっかけに医者になろうと思いました。

父は、わたしが神戸大学の医学部を卒業したときには重い肝硬変になっていました。点滴をすると苦しい中にも嬉しそうにしてくれたのを覚えていますが、58歳で亡くなりました。当時研修医のわたしは、「自分は何をしているんだ、せっかく医者になっても、父に何もできなかったではないか」と悔やみました。それが研究を志すひとつの動機となったのです。

高額な治療費がかかるようでは、病気を克服したとは言えない

父が亡くなった翌年、1989年にアメリカでC型肝炎ウイルスが同定され、やがて薬もできました。C型肝炎は治る病気になったのです。まさにわたしたち研究者が目指している「研究の力で病気を克服する例」と言えます。

ただ、この病気の原因がわかってから治療法が確立するまでに、25年がかかっています。これでは時間がかかりすぎです。

また、もうひとつ大きな問題があります。薬が高価であること、治療法によっては何千万円など高額になることです。こうなると一部の患者さんにしか使えず、病気を克服したことにはなりません。医療にとっては、どうすれば誰もが使える治療法になるのかが非常に重要なのです。

iPS細胞は無限に増やせる、新しい薬が創れる

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山中教授の講演には、1,500人を超える医師が集まりました。

わたしたちは、まだ有効な手立てがない病気の治療法を研究開発したいと思っています。そのために多くの研究をしてきましたが、最終的には、2006年にiPS細胞という技術に出合いました。

最初はねずみの皮ふの細胞を使い、移植をしたところ、まったく能力の違う幹細胞(かんさいぼう。組織や臓器に成長する、分化する元となる細胞。自分と同じ幹細胞を作る能力と、体を作るさまざまな細胞に分化する能力をあわせもつ)に変わりました。この人工多能性幹細胞に、“induced pluripotent stem cell”、略して「iPS細胞」という名前を付けました。翌年には、人間でもiPS細胞の同定に成功しました。

iPS細胞にはもとの皮ふの細胞とまったく違う能力があるわけですが、非常に大切な2つの性質があります。1つめは、「ほぼ無限に増やすことができる」ということです。「いろいろな細胞、心臓、脳、ほか理論的には全身のすべての細胞をつくり出すことができる」わけです。

そして、この臨床例として、再生医療薬の開発があります。心臓や肝臓の細胞を作り、傷害があるそれらの臓器に移植し、失われた機能を再生しようという「再生医療」です。

もう1つは、臓器が手に入らないことが治療に時間がかかる原因となっていますが、iPS細胞があれば、心臓や肝臓の細胞を大量につくることができる、しかも、過去に肝臓や心臓の病気にかかった患者さんの細胞から、iPS細胞をつくって薬の代わりに使うことができるのです。iPS細胞がもっと早くにあれば、C型肝炎の治療確立までに25年もかからなかったかもしれません。

iPS細胞は、2名のドナーから3,000万人分がカバーできる

わが国では、iPS細胞の技術では世界トップを走っています。再生医療では、このあと講演される高橋政代先生のチームが世界に先駆けて、網膜の病気の臨床応用をすでに開発されています。

そして、この一例目の臨床から多くの研究が発展しました。

一例目では、患者さんご自身の皮ふの細胞からiPS細胞をつくって、網膜細胞をつくり直されています。課題は、これには1年ほどの時間と、費用が大変にかかることです。

そこで、わたしたちがその解決策としていま取り組んでいるのが、「再生医療用iPS細胞のストック」のプロジェクトです。あらかじめ、ドナー(提供者)から提供していただいた細胞から、医療用のiPS細胞を作製します。安全性の確認を行って、品質が保証されたiPS細胞を保存し、国内外の医療機関や研究機関に迅速に提供します。2名のドナーから、日本人の25%、3,000万人がカバーできるのです。

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「iPS細胞のストックを使う再生医療」について、スライドを用いて解説をする山中教授。

ほかに、パーキンソン病、Ⅰ型糖尿病、血液疾患、がんなど、iPS細胞を使った再生医療が実施される日も近いと考えます。

もう1つ、新薬の開発が重要です。いま指定難病は300種以上ですが、なかなか創薬ができない現実があります。

たとえば、「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」は、命に関わる難病です。その患者さんと会って写真を撮ろうとしたときに、ひとさし指を立てて、「1」としてほしいと言われました。なぜかと聞くと、「1日も早く治療法を見つけてほしいのです」と言われ、心にしみました。

ハシレ、ヤマナカシンヤ

さらに、iPS細胞による難病の病態の解明の礎を提供すること、また、個人のiPS細胞を用いて事前に病気を把握して治療する「個別化医療」、「先制医療」、開発が中断している医薬品の再評価などが期待されています。

くり返しになりますが、せっかく研究をしても、それが何千万円もする高額の治療法であれば、本当の意味の成功とはいえません。どうすれば新しい薬の開発にコストを下げることができるかと言いますと、できるだけ大学で研究開発を行うことでしょう。そこでわたしたちは、国からの研究費用と一般の方から寄付を集めることで、最終の製品の価格を抑えることができるのではないかと考え、「iPS細胞研究基金」を設けています。

わたしは寄付を集めるために、マラソン大会に参加しています。1回走るとだいたい1,000万円ぐらいは集まります。いま京都大学のiPS細胞研究所は600人を超える陣容になっていまして、こういった研究を支えるには年間5億円は必要です。わたしが年間50回ぐらい走ると集まるわけです。そうすると毎週走らないとなりませんが、毎週は走れません(笑)

そう職員たちに話すと、基金に少しでも寄付を集めるために、職員がフリーダイヤルを設けて、番号を取得してきました。その番号は、0120-80-8748です。(会場は笑いに包まれます)わたしは、「なんだこれ、覚えにくいなあ」と言うと、職員いわく、「何をおっしゃいますか。ちゃんと覚えかたがあるんですよ。この番号はね、ハシレ、ヤマナカシンヤです!」

ここでまた会場中に爆笑と拍手喝さいが沸き起こり、そのタイミングで講演は終了しました。研究者、医師を志したきっかけから、iPS細胞の開発の背景と役割、現実、問題、そして今後の期待についてなんともわかりやすいお話で展開され、研究の現場のイメージが浮かんだ次第です。

最後のフリーダイヤルのくだりの余韻は大きく、筆者の周囲の席で聴講していた医師たちが、「寄付したくなるなあ」と口々に話されていました。筆者も同じ気持ちです。

講演は、世界初・iPS細胞を使って目の手術を実施した高橋政代プロジェクトリーダー(理化学研究所 多細胞システム形成研究センター)にバトンタッチされました。

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山中教授、高橋リーダーの講演後に、鼎談が行われました。左から、高橋リーダー、山中教授、福田学会長、泉岡実行委員長。

取材・文 阪河朝美/ユンブル 撮影 株本和美、町田緑/グリーンサム
協力 大阪府内科医会

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山中伸弥氏
1962年大阪府生まれ。京都大学 iPS細胞研究所所長・教授。アメリカ・グラッドストーン研究所上席研究員。神戸大学医学部卒。大阪市立大学大学院博士課程修了。医学博士。大阪市立大、奈良先端科学技術大学院大学などを経て2004年に京都大学再生医科学研究所教授、’10年から現職。’12年にノーベル生理学・医学賞を受賞。
京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

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