株式会社ウェルヴィーナス

《医師監修》世界初・iPS細胞で目の手術を実施した髙橋政代リーダーが語る「網膜の病気への応用」

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2017年10月8日・9日に大阪で開催された「第31回日本臨床内科医学会」(主催:大阪府内科医会。会長・福田正博医師。医師と医療関係者が参加)のレポートをお届けします。当サイトへ掲載させていただく経緯については、第1弾の《医師監修》うつ、睡眠障害、疲労……。『男性の更年期障害』を改善するには?の記事内にご紹介しています。合わせてご覧ください。

第31回 日本臨床内科医学会 レポート 05
髙橋政代氏 理化学研究所 網膜再生医療研究プロジェクトリーダー

レポート04の山中伸弥教授の講演「iPS 細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」に続き、髙橋政代プロジェクトリーダーによる講演「iPS細胞の網膜疾患への応用」が開催されました。

同医学会の学会長で、当サイトでも記事をご監修いただいている福田正博医師によって、経歴と実績とともに、「iPS細胞を使って世界初で人に応用する臨床を行った先生です」と紹介され、笑顔で登場されました。

髙橋リーダーは、2014年にはイギリスの科学誌『ネイチャー』の科学分野で「2014年に注目すべき5人」に、また、同「今年の10人」に選出されたことでも知られています。本文は髙橋リーダーによるお話しです。

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「第31回 日本臨床内科医学会」にて、髙橋リーダー、山中教授、福田正博学会長(大阪府内科医会会長)、泉岡利於実行委員長ら。

細胞を移植して臓器や器官を補う「再生医療」

眼科医として多くの治療を実践してきました。iPS細胞を用いた「再生医療」には、いくつかの戦略があります。

再生とは、内側から自然と元通りに治るということです。もっともいい治療とは、体の中にある幹(かん)細胞(分裂して同じ細胞を増やす能力と、体のさまざまな別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞。iPS細胞、ES細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、筋肉幹細胞など)を賦活(ふかつ。活力を与えること)化して、傷害された前の状態に自然に戻すことで、薬で治療する内科的な治療になります。

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「第31回 日本臨床内科医学会」で講演する髙橋リーダー。

ですが、傷害が大きくて内部の幹細胞だけでは治癒できない場合は、外から細胞を移植して臓器や器官を補って治療を行います。これが再生医療、細胞の治療になります。我々は、iPS細胞を使って細胞の治療を目指しています。

病気で失われた網膜の機能を再生させたい

2014年9月に髙橋リーダーは、それまで不可能だと考えられていた網膜の再生について、世界で初めて、動物実験ではなく、人に自分の皮ふ細胞から作製したiPS細胞から分化した細胞を移植する手術を成功させました。また2017年3月、これも世界で初めて、他人のiPS細胞を使った移植手術を行っています。

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1,500人以上の医師が集まり、会場は大盛況でした。

ここで、我々が行った再生医療の症例について少し紹介します。目の網膜は、従来、再生しないと言われています。視神経をつなぐのはまだまだ難しいので、我々の治療では、最初に光を受け取る網膜の中の視細胞、視細胞をメンテナンスする網膜色素上皮(じょうひ)細胞という2つの細胞を、iPS細胞から作製して移植するということです。

iPS細胞を使っているのは、ほかの幹細胞からはできないためです。iPS細胞かES細胞(肺性幹細胞)でしかできません。ただ、ES細胞は他人の細胞なので拒絶反応が出ます。それに伴い、目の小さな部分の治療ために患者さんに免疫抑制剤を飲んでもらうのは忍びないと思い、2012年に再生医療の開発を開始しました。

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「患者さんの皮ふからiPS細胞をつくり、シート状に培養して網膜に貼る方法です」などと話す髙橋リーダー。

我々の最初の症例は、「加齢黄斑(おうはん)変性」という、加齢が原因で起こる目の病気に対する治療です。「黄斑」とは、網膜の中心にあるものを見るにあたってもっとも重要な、光が集まる部分です。ものの形、大きさ、色、立体性、距離などの光の情報の大半を識別しています。この部分に異常が発生すると、見ようとするところがゆがんで見える、中心が暗く見える、ぼやけて見える、不鮮明になるなど、見え方に大きな支障が出ます。40代でなる可能性もあります。

病態を研究し、iPS細胞を使った治療をすると、視覚障害のかなりの状態を治療できると考えています。網膜は体の外に突き出ている脳の一部と称されます。その比較的単純な構築と体表、面に突き出しているために扱いやすく、中枢神経のモデルとして使用されます。

最近、網膜も神経回路網を再構築する能力を秘めているかもしれないと期待されています。この力を使って、網膜の中から、あるいは外から細胞を移植することによって、疾患で失われた網膜の機能を再生させたい、これが我々の目標です。

35歳で、「細胞を作らないといけない」と自覚した

日本は世界に先駆けて再生医療の法律をつくりました。日本の特徴は、臨床試験(人における有効性や安全性について調べる試験)と治験(厚生労働省から薬として承認を受けるための人における試験)があるということです。臨床研究の先には、先進医療があります。我々は常に患者さんの視点で、どういう治療が必要かを考えています。

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講演後、山中教授らとの鼎談(ていだん)にて。

細胞の治療は玉石混合になってきています。手術では数%の危険性はありますが、細胞の安全性は確立しています。他人の細胞の移植でも、白血球の型であるHLAをマッチさせると自分の細胞を移植するのと同じように免疫を抑制するようになり、拒絶反応があまり起こらなくなります。

日本の場合、治療の効果の判定は、治験後に各医学会が行います。世界は企業が主導で行っているから危ないのです。日本は医師が臨床研究から関わって、こういう治療を行おうとルールを考え、変えていきます。最初からずっと医師が関わっているわけです。

私は、35歳で留学した時に幹細胞と出合って、「あ、細胞を作らないといけない」という自覚を持ちました。臓器や器官の真の再生を促進させる方法を開発したい。そのためには、さまざまな発生研究の情報が必要であり、発生再生センターで研究をする意義があると考えています。

再生不可能と言われていた網膜の再生医療の研究開発で世界をリードする――。どれほどのご苦労があるのだろうかと想像を巡らせながら、明朗な話され方も印象に残りました。研究から治療へ、iPS細胞を使って人の目が機能を回復するかもしれない、その展望は明るいのではないでしょうか。

取材・文 阪河朝美/ユンブル  撮影 株本和美、町田緑/グリーンサム
協力/大阪府内科医会

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髙橋政代氏
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト・プロジェクトリーダー。京都大学医学部卒。京都大学大学院医学研究科博士課程(視覚病態学)修了。医学博士。京都大学医学部附属病院、アメリカ・サンティエゴ ソーク研究所などを経て現職。
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター

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