膝の痛みはなぜ起こるの?医師が語る原因と対策

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中高年になると、膝が痛くて「満足に歩けない」「立ち座りがつらい」といった“膝の痛み”に関する悩みが増えてきます。

そこで、関節の痛み治療を得意とするアットホーム表参道クリニック院長の腰塚裕先生に、膝の痛みが起こるメカニズムやケアなどについて話を伺いました。

患者数の多い「変形性ひざ関節症」についても、詳しく解説します。正しい知識や対策を身につけて、予防や症状の改善を目指しましょう。

目次

 

膝の構造はどうなっている?

体全体を支える重要な働きを持つ膝は、大きな負荷や衝撃が加わる関節です。片方の膝にかかる負荷は、歩いているときの場合、体重の約2.6倍と言われています。階段の上り下りをする、走る、跳ぶといった動作で、さらに負担は重くなります。

これほどの負荷がかかっても膝が傷まないのは、膝関節の構造にヒントがあります。膝の関節は、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)と、すねの骨の脛骨(けいこつ)、お皿の部分の膝蓋骨(しつがいこつ)の3つの骨でできています。

骨同士がぶつからないように「関節軟骨」で覆われ、骨の間には「半月板」があり、どちらもクッションの役割を果たしています。関節軟骨の主成分は「コラーゲン」と「プロテオグリカン」です。プロテオグリカンにはコンドロイチンが含まれています。

膝に負荷がかかると、コンドロイチンに含まれた水分がしみ出し(関節液)、滑りがよくなる仕組みです。そのため、ひざの衝撃が緩和され、関節の動きもなめらかになります。

膝の痛みが起こるメカニズム

立つ、歩く、座るといった日常のなにげない動作で、数え切れない曲げ伸ばしに耐え、かつ体重を支えている膝。そんな膝が痛むのは、関節軟骨に負荷がかかってすり減った軟骨のかけらが、滑膜(かつまく)と呼ばれる膝関節を包む袋の膜を刺激して、炎症が起こるためです。

関節包が硬くなり、曲げ伸ばしが痛い!

また、膝関節は「関節包」という袋に包まれ、その中は「関節液」という液体で満たされています。痛みがあると脚を動かさなくなり、関節包が硬くなります。それ自体が痛みの原因にはなりませんが、ますます曲げ伸ばししにくくなるのを無理に動かそうとして、痛みにつながることもあります。

関節は腫れることも

関節が炎症を起こすと、痛みの他に腫れることもあります。膝周辺部の組織が赤く腫れあがることもあれば、水がたまって膝周辺がブヨブヨにふくれてくることも。たまっている水は関節液で、痛みの原因にはなりません。たまる量が増えて膝が動かしにくくなったら、整形外科を受診して適切な指示を仰ぎましょう。

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代表的な「膝の痛みの訴え」とは

膝は、日常生活のあらゆる場面で曲げ伸ばしされています。そのため、「膝が痛い」とひと言で言っても、痛み方にはさまざまあります。

  • ・長距離を歩き過ぎて痛い
  • ・床から立ち上がるときがつらい
  • ・階段の上り下りがつらい
  • ・動いていると痛みが来て、立ち止まってしまう
  • ・動いていないときでもズキズキする
  • ・正座、横座り、しゃがむことが痛くてできない
  • ・痛みのほかに、ひざが腫れたり、熱を持ったりしている
  • ・痛みで膝がうまく伸びない、うまく曲がらない

 

こんな人は要注意! シニア、肥満、女性

膝の痛みを抱える人を見ると、ある傾向が見えてきます。該当している人は注意が必要です。

  • ・シニア世代(筋力や靭帯の強度が弱いなど)
  • ・女性(膝の構造が小さく体重の負担がかかりやすい、筋力が弱い、閉経後の女性ホルモンの減少により骨密度が低下するなど)
  • ・肥満の人(体重が重くて膝関節に負荷かかかる)
  • ・O脚の人(膝の内側に負担がかかりやすく、片側の関節軟骨がすり減りやすくなる)
  • ・過去に膝のケガをしたことがある(半月板の損傷や膝の靭帯の断裂など)

「肥満の方の中でも、ポッチャリで筋肉質タイプより、筋肉が少なくて脂肪たっぷりタイプのリスクが高いです」(腰塚先生)

膝の痛みを改善するためのセルフケア

膝の痛みを改善するのに、日常のセルフケアは欠かせません。代表的な方法を挙げたので、ぜひ習慣づけてください。

セルフケアその1 膝を温める
膝を温めて血行を促すことで、筋肉が緩んで動かしやすくなり、痛みはある程度和らぎます。入浴して湯船にゆっくりつかるのが簡単な方法。その他、温湿布、カイロ、蒸しタオルなどを活用することもおすすめです。

冬は暖かい服装を心がけ、女性はスカートよりスラックスを選ぶと安心です。サポーターや下着などで保護するのもよいでしょう。

セルフケアその2 運動を習慣づける
ウォーキング、ジョギング、水泳、水中ウォーキングなどの有酸素運動がおすすめです。脚の筋肉は衰えやすく、特にシニア世代は使わずにいるとどんどん筋力が低下します。

日ごろから適度に運動を習慣づけ、筋力の保持と強化を意識しましょう。膝に大きい負荷がかかりにくくなり、痛みの軽減につながります。

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セルフケアその3 体重管理に気を配る
膝の痛みの原因のひとつが関節軟⾻のすり減りですが、すり減りを起こす大きな要因は肥満です。自分が肥満かどうかをはかるのに目安となるのがBMI(体格指数)です。

BMI=体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)
この数値が25以上なら「肥満」と判定されます。肥満の人は、食生活の工夫をすることが必要です。毎⽇きちんと体重を測ること、そして体重を増やさないよう気を遣いましょう。

膝の痛みケアには、体重管理が大事

膝を傷めないためには、適正な体重を保つことがとても重要です。肥満の人は、食事に時間をかけて、よくかむことを意識すると満腹感を得られて食べ過ぎを防ぐことができます。

偏ったダイエットは避け、栄養バランスのよいメニューで規則正しく食べることを心がけてください。

特に、健康な筋肉をつくるのに役立つのがたんぱく質です。膝の痛みの悪化を防ぐのにも有効なので、たんぱく質が豊富に含まれている、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などを1日3食の中にバランスよく組み込みましょう。

「体重が減ると、筋肉もやせてきます。食生活の工夫をするときは、同時にスクワットなどの筋力トレーニングを行うことがポイントです」と、腰塚先生はアドバイスします。

膝を痛めてしまったときには、ストレッチを試して

膝が痛いと動くことが億劫になるので、「動きたくない」「外出も避けたい」といった状態になる人が少なくありません。すると筋力が落ちて、さらに膝の痛みが増すという悪循環に。そうならないように、膝の曲げ伸ばしを意識したストレッチを毎日行いましょう。

ひざ抱えストレッチ
1.背中を壁にまっすぐつけて、両脚を伸ばして座る。
2.片膝を曲げて、両手でできるだけ上半身に引き寄せる。伸ばしている方の脚は、床にピッタリくっつけて隙間がないようにする。そのまま30秒間キープ。

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3.反対側も同様に行う。

「このストレッチを、1日1~2回行ってみてください。ストレッチは、硬くなった筋肉をほぐして曲げ伸ばしをしやすい状態にしてくれます。食事後や入浴前後など、気が向いた時間に気軽に行う習慣づけができるといいですね」(腰塚先生)

膝をケアするために日常生活で気をつけること

日常生活では、膝に負担をかけないことが重要です。日ごろのなにげない動作が、ジワジワと膝に負担をかけているかもしれません。今すぐ見直してみましょう。

  • ・肥満にならないようにする
  • ・まっすぐ前を見て歩き、猫背にならない
  • ・重い荷物を持って歩かない
  • ・歩くときは杖などを活用
  • ・正座は避ける
  • ・イスとテーブルを活用した洋式の生活に切り替える
  • ・階段などでは、なるべく手すりを使う
  • ・しゃがむ動作を避ける
  • ・動き始めは準備体操してからゆっくりと
  • ・安静ばかりにならないで、なるべく動くことも大切。5000~8000歩を目安に歩く
  • ・靴は、「軽い、低い、柔らかい」タイプを選ぶ
  • ・外出時は移動時間や往復時間を計算し、歩き過ぎない

 

膝は冷やす方がよい? それとも温める?

膝が痛いとき、「冷やす? 温める?」と迷うことはありませんか? 腰塚先生は、次のように話します。

「基本は温めることです。入浴はもちろん、カイロ、ホットパックなどを利用すると便利です。ただし、膝が熱を持って赤く腫れているような急性炎症の場合は、いったん冷やして腫れを落ち着かせることが先決です」

膝が痛いときは、心強い補助具を活用

膝が痛いとき、補助具を上手に活用することもひとつの方法です。種類がいろいろあるので、自分に合った補助具を見つけてください。


膝にかかる体重を分散でき、歩くのがとても楽です。転倒予防にも効果的。行動範囲が広がることで、気分も変わるでしょう。「杖は格好悪い」と抵抗のある人がいるかもしれませんが、現在はおしゃれな杖が多く市販されています。きっと外出が楽しみになりますよ。

シルバーカー(手押し車)
杖と同じように、膝の負担が減って歩きやすくなり、転倒予防にもなります。荷物入れや休憩用のイス代わりにもできるので、外出先でも便利です。猫背になって押すと腰に負担がかかるので、まっすぐな姿勢を保ちましょう。

サポーター
膝の周囲を覆うもので、筋肉をサポートして膝関節を支え、動きを安定させてくれます。膝の痛みを悪化させる「冷え」対策にも効果が。

「ただし、サポーターをずっと着けていると筋力が落ちてきます。外出するときだけ着けるなど、頼りすぎないようにしてください」(腰塚先生)。

足底板(そくていばん)
靴の中に入れ、O脚を矯正する目的で使用します。体重が膝の内側に偏らず、バランスをとりやすくなり膝の負担が軽くなります。

O脚の人は膝の内側に負担がかかりやすく、片側の関節軟骨がすり減る傾向があるので、かかとの外側が厚い足底板がすすめられます。

膝の痛みを放っておくとどうなる?

特にシニア世代は、「少し痛くても大丈夫」と、がまんしがちです。しかし、膝の痛みを放っておくと、動くことがつらくなって筋力も衰え、膝の曲げ伸ばしができなくなったり、歩行困難になったりすることがあります。重要な病気の見逃しにつながることもあるでしょう。

「膝が痛い。腫れている!」これってどんな病気?

膝の痛みが伴う代表的な病気を紹介します。心当たりがあれば、早めに受診して治療を受けてください。

変形性ひざ関節症
関節軟骨や、半月板という部分がすり減ることによって、痛みが生じます。動き始めや、歩いているときに特に痛みを感じます。

特発性骨壊死(とくはつせいこつえし)
大腿骨の膝関節に接している部分に血行障害が起こり、骨の一部が壊死します。50歳以上の女性に多く見られますが、原因ははっきりしていません。急に痛みが強くなったり、夜間に痛くなったりします。

関節リウマチ
膝だけでなく、全身の関節が「痛い、腫れる、こわばる」といった状態になる多発性の関節炎です。手首、足首、ひじ、膝など、左右対称に痛むことが大きな特徴。免疫機能が、間違って自分の細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつです。

化膿性関節炎(かのうせいかんせつえん)
関節内になんらかの原因で細菌が侵入し、化膿する病気です。原因となる菌は、黄色ブドウ球菌が最も多く、連鎖球菌、肺炎球菌なども報告されています。

急に発症し、腫れ、熱感、発熱を伴います。この状態が続くと関節の表面にある関節軟骨が破壊され、さらに進行すると骨が溶ける場合も。急速に進行するので、迅速な診断と治療が重要です。

痛風
尿酸の結晶が関節や腎臓にたまる病気。多くは足の親指の付け根の関節に、突然強い痛みが起こりますが、ときどき膝が痛くなることもあります。

強い痛みは2~3日続くのが一般的で、1~2週間ほどで治まります。痛風は男性に多く見られ、食べ過ぎや運動不足などが引き金となっています。

変形性ひざ関節症のこと、詳しく知りたい!

膝の病気で一番多いのが「変形性ひざ関節症」です。痛みなどの自覚症状がある人は、日本人の15人に1人、推定約800万人いると言われ、自覚症状のない人を含めると推定約2,530万人が罹患しているといわれています。

女性は50代半ば、男性は60代半ばから発症する人が多く、男女比は1:4となっており、女性に多く見られます。その他、肥満の人も少なくありません。

変形性ひざ関節症は、どんな治療をする?

治療の基本は、消炎鎮痛剤の飲み薬や塗り薬、ヒアルロン酸の注射薬、そしてリハビリテーション(運動療法)です。

「薬は対症療法なので、一番重要なのはリハビリテーションです。理学療法士の指導のもとでその方に合ったリハビリテーションができれば、1ヶ月くらいで効果が見られるでしょう。早くて2~3週間くらいで立ち座りが楽になったという方も多いです」(腰塚先生)

膝の痛みや腫れがひかないときにはどうする?

膝の痛みや腫れで悩んだときは、整形外科を受診してください。腰塚先生は、「軽症なら1~2日で治るのが通常です。1~2週間痛みが継続しているなら受診を」と話します。「ときどき、『そのうち治るだろう』と2~3ヶ月放置し、痛みがひどくなってからやっと受診する方がいます。症状がひどくなってくると、リハビリテーションの期間も長くなって大変。薬やリハビリテーションで早く対処することが、早期改善につながります」

インターネットで検索すると、整形外科のホームページがたくさんヒットして、「どこを選んでよいかわからない」となりそうです。「理学療法士の指導のもとで、安心してリハビリテーションが行える病院を選ぶとよいでしょう」(腰塚先生)。

ここまで来た最新治療! 自分の細胞を使って

薬などの保存的治療で十分な効果が見られない場合、最終的に手術が選択されます。ところが、「人工関節に置き換える手術などはしたくない」と抵抗を感じる人が少なくありません。

そんな中、2つの再生医療が注目されています。自分の血液の血小板を使い、膝関節に注射する治療法(PRP療法)と、自分の幹細胞を膝関節に注射する治療法(幹細胞治療)です。

「PRP療法は、メジャーリーグで大活躍しているロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が肘を故障した際に受けています。2つの治療法は、どちらも自己修復力を高めて痛みが軽減する効果が期待されています。手術にハードルが高いと感じている方には、これらのような、自己組織を使う“切らない治療”も選択肢のひとつとなるでしょう」(腰塚先生)

「膝の痛みは、日常生活の見直し、ストレッチや筋力トレーニング、受診などに積極的に取り組むことで、痛みがなく、スタスタ歩けて、スポーツができるまで改善することも期待できます」と腰塚先生は話します。前向きにあきらめない気持ちを持ちながら、痛みのない快適な毎日を目指して一歩を踏み出しましょう!

取材・文/内藤綾子

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腰塚裕(こしづかゆう)先生
アットホーム表参道クリニック院長
群馬大学卒業後、東京大学整形外科に入局。虎の門病院、国立国際医療センター、大学関連病院などで勤務したのち、2009年に「アットホーム表参道クリニック」を開設。「お役立ちコラム」https://hiza.o-athome.jp/columnが人気。

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