医師に教わる正しい腰痛の対処法

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“腰痛”は二足歩行を始めた人間の宿命とまで言われるほど、多くの人が生涯のなかで何度も痛みを経験することが多い症状のひとつです。

腰痛の原因はさまざまで、内臓の病気などの中にも腰痛をともなうものがあります。腰痛を引き起こす病気や腰痛を予防する体の使い方について、NTT東日本関東病院 整形外科医長の山田高嗣医師に教えていただきました。

目次

 

腰痛にかかわる背骨と骨盤の仕組み

腰痛を治すには腰痛に関する正しい知識を持つことが必要です。その前に、まず腰痛にかかわる「背骨」と「骨盤」の仕組みを確認しておきましょう。

【背骨】
背骨は26個の椎骨(ついこつ)でできています。上から頚椎(けいつい)、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨と部位によって名前が異なりますが、すべて連動しています。

頚椎は前弯(前側にカーブ)、胸椎は後弯(後ろ側にカーブ)、腰椎は前弯、仙骨と尾骨は後弯というように、背骨はゆるやかなS字カーブを描いているのが理想的なかたちとされています。

【骨盤】
骨盤は、仙骨と尾骨、それと腸骨・坐骨・恥骨からなる寛骨(かんこつ)の3つの骨から成り立ち、腰椎と大腿骨をつないでいます。仙骨と腸骨は靭帯に囲まれた仙腸関節によってつながっています。

腰痛を引き起こす主な病気

腰痛を引き起こす原因が、レントゲンやMRI、CTなどの画像に写し出された異常な所見で説明できる場合に病名がつきます。腰痛の主な病気には、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア、腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)があります。

腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア
椎間板の中に存在する髄核(ずいかく)という組織が、外に飛び出してしまった状態で、これが腰の骨である腰椎の椎間板で起こったものを腰椎椎間板ヘルニアと呼びます。

病状は腰やお尻が痛み、次第に下半身にしびれや痛み、まひなどが広がります。悪い姿勢での動作や喫煙などでヘルニアが起こりやすくなると言われています。問診をはじめ、筋力や感覚検査に加えMRI検査で診断を確定しますが、画像で椎間板が突出していても痛みやまひがなければ問題ありません。

痛みがある場合は、鎮痛剤の内服や座薬で痛みをやわらげ、症状に応じて神経ブロック注射を行います。ある程度、痛みが軽くなってから運動療法や物理療法を行います。このような方法で改善がみられない、下肢に力が入らない、排尿・排便の感覚がわからないなどの障害がある場合は手術を検討します。

腰椎すべり症(分離すべり症・変性すべり症)
腰椎すべり症には、“分離すべり症”と“変性すべり症”の2種類があります。背骨をつなげている部分が分離してしまう状態を分離すべり症、椎間板や椎間関節が老化により変形することが原因でずれたものを、変性すべり症といいます。

分離すべり症の多くは、成長期の中学生の頃にスポーツの練習などで腰を反らせたり回したりする動作を繰り返し行うことで、腰椎の後方の椎弓(ついきゅう)という部分に亀裂が入って起こります。

一般の人では5%程度、スポーツ選手では30~40%の人が分離症になっていると言われています。分離症は主に10代で起こりますが、それが原因となって分離すべり症に進行していく場合があります。

分離症があっても強い痛みや日常生活、仕事での支障がなければ、腹筋や背筋を強化して腰痛を予防します。痛みが強い、神経が圧迫され、しびれやまひなどの症状が出た場合は、圧迫を取り除く手術や脊椎固定術(せきついこていじゅつ)を行います。

変性すべり症の原因は老化によるものだと考えられています。加齢とともに腰椎の椎間板や椎間関節・靭帯がいたみ、すべった腰椎がぐらついた結果、神経の通り道である脊柱管が狭くなり神経を圧迫して、腰痛や下肢痛、しびれが起こります。

消炎鎮痛剤などを服用し、痛みが軽減してきたらストレッチや体幹の筋力を強化する訓練を行います。

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
脊柱管という背骨の内側の管が狭くなり、その中を通る神経が圧迫されることによって起こる中高年に多い病気です。

特に腰・殿部の痛みと下肢のしびれがひどく、長時間続けて歩くことができなくなる“間欠性跛行(かんけつせいはこう)という症状が見られます。夕方や天気が崩れそうなときに症状が強くなる傾向があります。

特に背筋を伸ばして歩くのがつらく、背を丸めて歩くと比較的楽に感じられます。もともと腰椎すべり症を患っていた人が、腰部脊柱管狭窄症の症状が強くなるケースも少なくありません。治療は鎮痛薬や神経ブロック、コルセットの装着、リハビリテーションなどを行います。

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症状の1つとして腰痛をともなう病気

泌尿器系や皮膚や血管などの病気の中にも、症状の1つとして腰に痛みが現れることがあります。どのような病気のどのタイミングで腰痛が引き起こされるのでしょうか?

泌尿器系の病気

尿管結石(にょうかんけっせき)
腎臓と膀胱を結ぶ尿管という細い管に、尿の中に溶けている成分が結晶となってできた石が詰まる病気です。わき腹や背中の低い部位、腰に激しい痛みを起こします。

結石が尿と一緒に流れて膀胱まで落ちれば尿道から排出されるので自然と治ります。ただし、膀胱に落ちるまでどのくらい時間がかかるのかは石の大きさにもよるので、一概には言えません。

痛み止めを服用して水分を多くとると症状がやわらぐこともありますが、症状が改善されない場合は「ESWL(体外衝撃波結石破砕術)」で、結石を粉々に砕きます。これは、手術よりも患者さんへの負担が少ない治療法です。

腎梗塞(じんこうそく)
腎臓に血液を送り込む動脈に血流障害が起きることによって、その動脈から酸素や栄養を得ていた腎臓が壊死する病気です。血液の流れが悪くなった腎臓側の脇腹、腰や背中が急激に激しく痛みます。

また、39℃前後の発熱や吐き気、嘔吐などをともないます。原因としてもっとも多いのは、心臓の弁に異常がある心臓弁膜症、心内膜炎、心房細動などの心疾患によるものです。

皮膚の病気

帯状疱疹(たいじょうほうしん)
帯状疱疹は水痘帯状疱疹(すいとうたいじょうほうしん)ウイルスによって起こる病気です。水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染したときは水疱瘡(みずぼうそう)として発症しますが、その後、ウイルスは体内の神経節という部分に潜伏していて、疲れたり免疫機能が低下したりしたときに、再活性化すると帯状疱疹を引き起こします。

50歳以降に多い病気ですが、ストレスや疲労などがあると若い人でも発症します。また、1度かかったとしても何年後かに再発する可能性があります。

症状はウイルスが潜伏していた神経の支配領域に一致して湿疹と痛みが現れます。顔や足、腕、背中など全身のどこにでも症状が出ます。

初めはピリピリとした皮膚の痛みであることが多く、時間がたつにつれ徐々に赤みや水疱(すいほう)などの皮疹をともないます。腰の部分に帯状疱疹が出れば腰痛をともなうこともあります。

帯状疱疹の抗ウイルス薬を服用すれば治りますが、飲むのが遅れると湿疹(しっしん)がおさまっても痛みだけが長く残ることがあります。湿布などのかぶれと勘違いしたり、背中など自分では確認しにくいところに症状が出たりすると、受診が遅れることがあるので気をつけましょう。

血管の病気

大動脈解離(だいどうみゃくかいり)
大動脈解離は、心臓から全身に血液を送る最も太い動脈である大動脈の壁に血液が流れこみ、外膜・中膜・内膜の3層になっている大動脈壁の内膜に亀裂が入り、中膜が急激に裂けていく病気です。

突然、胸や背中を中心とする非常に激しい痛みや吐き気が起こり、意識を失うこともあります。腰の部分で解離すると腰痛もともないます。

解離が生じることによって分岐した先の血流が途絶えてしまうと、脳梗塞や心筋梗塞など極めて危険な状態に進行する可能性が高い病気です。循環器内科あるいは心臓血管外科での治療が必要です。発症リスクは高血圧、糖尿病、喫煙、ストレス、加齢などです。

婦人科系の病気

上記の他に子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣腫瘍などの婦人科系の病気も腰痛をともなうことがあります。これらの病気は月経との関係が深く、腹痛が起きた後、さらに腰痛も起きることが多いので一般的な腰痛と区別できます。

このように腰痛は、さまざまな原因によって起こりますが、日常生活の中で起きる腰痛の多くは急性腰痛症です。急性腰痛症とは、急激に起こる腰痛で動くことで痛みが悪化し、神経痛やまひなどをともなわないものです。

また、レントゲンやMRIで原因となるはっきりとした異常が見つからない、1~2週間程度で治るものをいいます。急性腰痛症は、腰に負担をかけない動作を心がけることで予防することができます。以降は腰に負担をかけない体の使い方をご紹介します。

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よい姿勢を心がける

姿勢が悪いと腰痛を起こしやすいといいます。では、よい姿勢とは具体的にどのような姿勢なのでしょうか。冒頭で説明したように、背骨はゆるやかなS字カーブを描いているのが自然です。この生理的な弯曲があることで重力にも耐えられ、飛び跳ねたときなどに生じる衝撃も吸収できます。

よい立ち姿勢とは、筋肉や関節に最も負担のかからない姿勢ということです。横から見たときに耳の後ろ、肩、太ももの横、くるぶしまでが、地面から一直線になるようにしましょう。

肩の力を抜いて顎を引いて背筋を伸ばし、下腹に力を入れて肛門を引き締めます。胸を反らし過ぎる、おなかを突き出す、猫背はNGです。背骨が自然なカーブを描いていることを意識しましょう。そして、ときどき全身を鏡で映して姿勢や体型をチェックして、よい姿勢をキープすることが大事です。

姿勢がよいと呼吸もしやすく、内臓の働きもよくなります。無駄なエネルギーを使う必要がないので、疲れにくく腰痛予防に効果的です。

同じ姿勢を長く続けない

近年はパソコン作業を中心としたデスクワーカーが増えていますが、いすに座って仕事をしているときは、腰椎の椎間板に通常の1.5倍の重圧がかかります。また、同じ姿勢を長時間続けていると、筋肉が疲労を起こしたり血流の障害を起こしたりして、腰に痛みが起こりやすくなります。

このように、腰周辺の筋肉疲労が原因で起こるのが“筋・筋膜性腰痛”です。デスクワーク腰痛という呼び方をされる場合もあります。筋・筋膜性腰痛を放置していると、どんどん疲労が積み重なり、やがて椎間板や椎間関節にまでトラブルが起きる可能性があります。

症状が進まないように、座って仕事をする機会が多い人は、少なくとも30分~1時間に1回は休憩を挟み、腰を伸ばすようにしましょう。

最近はスマートフォンの普及により、老若男女が至る所で操作している光景を目にします。しかも、ほとんどの人が前のめりや猫背の姿勢で操作しています。

パソコンやスマートフォンなどを使うときは、背筋を伸ばしたよい姿勢で行い、できるだけ腰の筋肉に疲れをためないように心がけましょう。

また、いすの座り方が悪いと、それも腰痛の原因になります。腰に負担をかけない「正しいいすの座り方」のポイントは以下の4点です。いすに座るときは下記の点を意識しましょう。

  • 1.座面の奥まで深く腰掛ける
  • 2.腰が背もたれに対して、ほぼ直角に曲がる
  • 3.膝もほぼ直角に曲がる
  • 4.足の裏全体がしっかりと床についている

 

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腰に負担をかけない体の使い方をマスターしよう!

普段、何気なく行う動作を少し変えるだけで腰痛は防ぐことができます。どのような点に注意すればよいのかポイントをご紹介します。

朝・起床時
一晩中、休んでいた筋肉を急に動かすと急性腰痛を引き起こすことがあるので、朝の行動には気をつけましょう。朝目覚めたとき、これから1日が始まり体を動かすことを筋肉に知らせるために、ウォーミングアップが必要です。

起床時はいきなり起き上がらずに、布団の上に仰向けに寝たまま、まず両手と両脚をゆっくり動かしましょう。筋肉に少し刺激を与えて血流がよくなってから体を動かすことで、こわばっていた腰もほぐれます。

また、洗面所で顔を洗うときは片足を台に乗せることで、前かがみになるときにかかる腰への負担がやわらぎます。

物を持つ

正しい荷物の持ち上げ方
比較的、軽い荷物を持ち上げる場合は、中腰で上半身を曲げて持ち上げることが多いのではないでしょうか。

腰の角度が床と水平に近くなると腰への負担が大きくなり、腰痛の原因になります。軽い荷物でも油断は禁物。荷物を持ち上げるときは、下記の手順で行いましょう。

  • 1.膝を曲げて腰を深くおろす
  • 2.荷物はできるだけ体の中心に近づけて密着させる
  • 3.背中をまっすぐに伸ばす
  • 4.膝の屈伸を利用してゆっくり持ち上げる

 

カバンや荷物を持つときは……
片方の手だけを使うのではなく時々持つ手を変えるか、両手に分けて持ちましょう。

ショルダーバッグよりもリュックサックを使う方が、同じ重さでも手で持つよりも腰への負担は軽くなります。また、日用品などの買い物はショッピングカートやキャリーケースなどを使うとよいでしょう。

腰にやさしい寝具の選び方と寝方

朝目が覚めたときに腰や体の節々に違和感や痛みがある場合は、使用している敷布団やマットレスが自分の体に合っていない可能性があります。

背骨はゆるやかなS字にカーブしているのが、最も負荷がかっていないリラックスした状態です。このS字カーブが崩れてしまうと、骨やその周りの筋肉などに負担がかかり腰に痛みが生じます。

敷布団やマットレスが柔らかすぎると腰が沈むため、背骨のS字カーブが崩れてしまい腰痛を引き起こしやすくなります。また、腰が沈むと寝返りも打ちづらくなるため体重が一部分に集中しやすく、血行不良を招きます。敷き布団やマットレスは少し硬く感じるくらいの寝具がおすすめです。

横向きに寝る場合は、少し膝を曲げて腰に負担がかからないようにしましょう。また、うつぶせ寝は腰を反る状態になるため腰痛を引き起こしやすくなります。うつぶせで寝るときは、片方の脚の膝を曲げて枕やタオルなどを挟むとよいでしょう。

出典:弁慶・牛若丸の腰痛教室 第一三共(株)
厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針及び解説」

腰痛の主な病気は椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症です。しかし、それ以外にも症状の1つとして腰に痛みが現れる病気はあります。尿管結石や腎梗塞などの泌尿器系の病気や帯状疱疹といった皮膚の病気、動脈解離など血管の病気などもその1つです。

腰の痛みは重大な病気のサインである可能性もあるので注意が必要ですが、大半は急性腰痛症です。日常生活の中で、できるだけ腰に負担をかけない動作を心がけることで、急性腰痛症の予防・改善に役立ちます。

よい姿勢や腰に負担をかけない体の使い方をマスターして、腰痛に悩まされないアクティブな生活を目指しましょう。

取材・文/高橋晴美

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取材協力・監修者プロフィール
山田 高嗣
NTT東日本関東病院 脊椎・脊髄病センター長と整形外科医長を兼務
1994年、東京大学医学部卒業。脊椎外科を専門に、整形外科一般に広く臨床・研究を行う。東京大学医学部附属病院、武蔵野赤十字病院、三楽病院などを経て、2007年にNTT東日本関東病院に勤務。現在に至る。
NTT東日本関東病院
https://www.ntt-east.co.jp/kmc/

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