股関節が痛いときの治療法

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普段の生活の中で、私たちは“股関節”を意識することはほとんどありません。しかし、この股関節は体の要となる部分にあり、数多くある関節の中でも、立つ・歩く・座るといったさまざまな動作に関わる大切な関節です。

近年、中高年の女性をはじめ多くの人が股関節の痛みに悩んでいます。股関節が痛むときの治療法や有効な予防法について、NTT東日本関東病院 人工関節センター長の大嶋浩文先生に詳しく解説していただきました。

目次


股関節の構造と役割

股関節とは骨盤の両側の寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれるくぼみに、大腿骨頭(だいたいこっとう)がはまっている部分のことを言います。

体の中心部にあり、上半身と下半身をつないでいます。膝関節や足の関節とともに重い体重を支え、脚を前後だけでなく左右に開いたり、外側と内側にグルグルと動かしたりする役割を担っています。立つ、歩くといった動作の他に、あぐらをかいたり後ろを振り向いたりしたときなど、さまざまな動作に関わっています。

寛骨臼と大腿骨頭骨の表面はクッションの役割を持つ、なめらかな「関節軟骨」で覆われています。股関節全体を「関節包(かんせつほう)」が覆い、内部は少量の「関節液」が環流しています。

股関節には常に大きな負担がかかっている

股関節は立つ・歩く・座るといった動作をするときの“要”となる関節で、常に大きな負担がかかっています。

具体的には、立っているときは体重の0.6~1倍、歩行時は体重の3~4.5倍、ジョギングしたときには体重の4~5倍、階段の上り下りで体重の6.2~8.7倍にもなると言われています。これは、痛みの症状として出やすい腰や膝よりも、かかる負荷は大きいのです。

股関節が痛む主な疾患は?

「股関節が痛む主な疾患には『変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)』『大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)』『関節リウマチ』があります。その他、近年、日本は超高齢化社会となり「骨粗しょう症」が増えている関係で、関節そのものに微小な骨折を起こす『大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(だいたいこっとうなんこつかぜいじゃくせいこっせつ)』という疾患が増加傾向にあるように思います」(大嶋先生)。

それぞれの疾患の症状や治療法について次の章で詳しく説明します。

“変形性股関節症”は日本人の女性に多い病気

股関節のトラブルにはさまざまな種類がありますが、最も多いのが変形性股関節症です。寛骨臼と大腿骨頭が接する部分の軟骨が、すり減ったりなくなったりすることで股関節まわりが痛くなります。日本人の女性には、この変形性股関節症になりやすい傾向があります。

「日本人は欧米に比べて、もともと生まれつき寛骨臼がじゅうぶんに大腿骨を包み込んでいない『寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)』の人が多く、8~9割がこれに該当し患者の約9割が女性です。寛骨臼のかぶりが浅いと体重を支える面積が通常より少なくなるので、軟骨にかかる負担が多くなるため軟骨がすり減る割合が増えます。原因は解明されていませんが、遺伝子が関係しているということは分かっています」(大嶋先生)。

寛骨臼形成不全を抱えていても初期では症状が出ないことがほとんどです。しかし、中高年になると次第に症状が悪化していき、40~50代で痛みが出て変形性股関節症と診断されます。

また、乳児期に股関節の脱臼が判明する「発育性股関節脱臼(はついくせいこかんせつだっきゅう)」も、同じく日本人の女性に多い病気です。この病気は乳児期に治療して治すため、本人は大人になってから痛みが出るまでその事実を知らないことがあり、医療機関への受診が遅くなる場合もあります。

「身内に股関節が悪いとか人工関節の手術を受けた人がいる場合は、そのことを念頭に置いておくことが、変形性股関節症の早期発見のためには大切です」(大嶋先生)。

変形性股関節症の病期

X線画像で股関節を見ると、関節がどれくらい変形しているか確認できます。その変形度合いにより、変形性股関節症は、前股関節症・初期股関節症・進行期股関節症・末期股関節症の4つの病期に分類できます。

前股関節症
寛骨臼形成不全が見られても、関節軟骨はすり減っていない状態。大腿骨頭と寛骨臼の間も空いていて関節軟骨のクッションが残っているので、痛むこともない。

初期股関節症
関節軟骨が少しすり減っている状態。関節軟骨が部分的になくなって、表面がデコボコになったり骨が硬くなったりしていることもある。多少の痛みがあることが多い。

進行期股関節症
関節軟骨はかなりすり減っているため、痛みを頻繁に強く感じるようになる。関節軟骨のクッションが機能しなくなり関節軟骨の下にある骨が直接ぶつかるようになる。

末期股関節症
関節軟骨はほぼ消失する。関節軟骨のクッションがなくなるので、通常であれば強い痛みが出るが関節が動かなくなるほど進行すると、逆に痛みが軽減することもある。

変形性股関節症の治療

治療の基本となるのは、症状の進行を抑える「保存療法」です。痛みを軽減するために日常生活のなかで、股関節への負担を減らす生活術と、股関節の動きをスムーズにするための「運動療法」が基本となります。

運動療法には、ストレッチやマッサージ、体幹から股関節周辺の筋力を強化する方法など、さまざまな種類があります。「保存療法は手術を回避するためにも重要ですが、たとえ手術が必要になった場合でも、運動療法によって改善された可動域や筋力は必ずよい手術結果につながります」(大嶋先生)。

また、痛みを緩和するために「薬物療法」を行う場合もあります。副作用の少ない消炎鎮痛剤などを使います。

痛みの強さや股関節の変形の進み具合によっては手術を選択します。手術は大きく分けて、自分の関節を残す「骨切り術」と、人工関節に置き換える「人工股関節置換術」があります。手術のタイミングは患者さんによってケースバイケースです。

股関節の変形の状態と患者さんの年齢や希望などを考慮して、適切な手術を選びます。そして、手術後、リハビリの後も運動療法や生活習慣の改善は続けます。

「これまで人工股関節は10年、15年が限界と言われていました。しかし現在では、機械類の性能や質が格段に進歩したことで、長期耐用性が期待できる人工関節が使えるようになっています」(大嶋先生)

“大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)”とは?

大腿骨頭壊死症は難病指定されている病気です。原因はステロイドを短期間で大量に使用したことがある、あるいは、長期間にわたるアルコールの過剰摂取した人に多いことがわかっています。

しかし、全員が大腿骨頭壊死を発症するわけではありません。ベースにステロイドかアルコールがあり、そこに何らかの遺伝子が関連し、それらが組み合わさったときに発症すると考えられています。

大腿骨頭壊死が発症した場合は、場所や範囲によりその後の治療法が異なります。

“壊死”とは骨の細胞が死んでしまったことを意味するので、壊死範囲が広かったり体重を支える場所に壊死があったりすると、地盤沈下のように一気につぶれてしまいます。骨がつぶれてしまうと歩行が困難となるので、人工関節を余儀なくされる人がほとんどです。

壊死が起きたときは、無症状で痛みはありません。骨がつぶれたときにはじめて痛みが出ます。痛くなってから整形外科を受診したときには、既に骨がつぶれているケースがほとんどです。そうなると治療の選択肢は限られます。

「もし、何らかの疾患があり治療のために、ステロイドを短期間に大量に使用した経験がある場合は、MRI(磁気共鳴画像装置)検査をすることで、骨頭壊死で骨がつぶれる前に発症を捉えることができるかもしれません。人工関節が必要か否かは壊死の場所と範囲に既定されます。体重が多くかかるところに壊死があれば、短期間でつぶれますが、別の場所の小さいものであれば、つぶれることはないので手術が回避できる可能性は高いでしょう」(大嶋先生)。

自己免疫疾患のひとつ“関節リウマチ”

関節リウマチは、本来、細菌やウイルスなどから自分を守るはずの免疫機能が、何らかの異常により自分の体の一部である関節に対して働く自己免疫疾患です。詳しい原因は解明されていません。

発病すると関節の痛みや腫れ、こわばりなどが起こります。進行すると関節周辺の軟骨や骨が破壊され、関節の変形や脱臼などを引き起こし、日常生活に支障が出ます。

「関節リウマチが疑われる場合は、リウマチ膠原病(こうげんびょう)内科などの内科を受診することが多く、整形外科で診察することはほとんどありません。関節リウマチの検査には、血液検査や画像検査があります。これらの検査結果と症状を組み合わせて診断します。関節リウマチの治療は、抗リウマチ薬などを投与しますが、それでも痛みが改善されない場合には、人工関節置換術などの手術を行います。しかし近年では、生物学的製剤が飛躍的に進歩して薬の効果が高いことから、関節リウマチで手術する方は激減しています。治療は病状により変わるので病院で定期的に関節のチェックを受けることが大切です」(大嶋先生)。

早めに受診することで手術を回避できる可能性は高まる

「関節がおかしいなと思ったら、すぐに専門医のところで診察を受けてください。こんな症状で病院に行っていいのだろうか?と、ためらう必要はありません。手術だけが治療ではないので、手術を回避するというのが一番、患者さんのメリットだと思いますから、早めに受診をして、今後、手術を回避するにはどうすればいいのかということを、医者と一緒に考えていくというスタンスでいてほしいです。

病気の状態により、できるアドバイスは変わってきます。悪くなってしまうと、最終的には手術という選択しかなくなってしまいますが、早めに来ていただければできるアドバイスはたくさんあると思います。もちろん、アドバイス通りにやっていただいたからといって、必ずしも人工関節が回避できるわけではありませんが、手術以外の方法でやれることがあれば一生懸命にやってみて、それでも痛みが強く、生活にも大きな支障が出てしまう場合に、人工関節の手術を検討される。という流れが一番いいと思います」(大嶋先生)。

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股関節痛の改善・予防①“適正体重を維持する”

股関節痛を予防・改善するために有効であると科学的に証明されているのは、「適正体重を維持すること」と「筋肉を鍛えること」です。

肥満にならないように体重をコントロールして適正体重を維持することは、股関節だけでなく健康寿命を伸ばすために重要です。そこで、適正体重の目安の1つとなるのが体格指数と呼ばれるBMIです。下記の式で算出された数値を表の体格判定で確認しましょう。

(式):BMI=体重(kg)÷身長(m)の二乗
例えば、身長160cm、体重60kgの人であれば、60(kg)÷(1.6×1.6)=23.4
BMIは23なので「標準」になります。

体格指数 体格判定
18.5未満 やせ
18.5~25未満 標準
25~30未満 肥満
30以上 高度肥満



同じBMIでも体形や体脂肪率が異なることもあるので賛否両論ありますが、BMIの指標は、股関節に負担をかけない体重の目安として便利です。

体重だけを意識するのではなく、たんぱく質やカルシウムをはじめとした栄養をバランス良く摂取することは大切です。標準体重であっても質が低くては良い状態とは言えません。食事の質を高め丈夫な骨と筋肉で股関節をしっかりサポートできる体を目指しましょう。

股関節痛の改善・予防②“効率的な運動で筋肉を鍛える”

「効率的に筋肉を鍛えるにはプールがおすすめです。股関節、膝、足というのは体重がかかる荷重関節。常に体重がかかっているので関節を酷使している状態なのですが、水の中であれば浮力があるので関節には負担がかかりません。また、水の抵抗があるので脚の筋力を効率的に鍛えることができます。泳がなくても歩くだけで十分です。水の中でのトレーニングが環境としては理想的なので、プールがある施設に通うことができればそれがベストです。もし、近くに通えるプールなどがない場合は、室内で行う筋肉トレーニングがよいでしょう」(大嶋先生)。

室内で行う筋肉トレーニング

下記の方法は筋肉トレーニングの一例。体重の負荷をかけずに、股関節まわりの筋肉を鍛えられる運動です。毎日少しずつ行い、継続して筋力の強化を目指しましょう。

【あおむけで脚伸ばし】

  1. 1 あおむけになって両膝を立て、両手はおなかの上に置きます
  2. 2 大きく呼吸をしながら、右脚をゆっくり引き上げてまっすぐ伸ばし、そのまま3秒キープします
  3. 3 左脚も同様に行います
  4. ※ 左右各10回を1セット



【あおむけでお尻を上げる】

  1. 1 あおむけになって両膝を立て、両手はおなかの上に置きます
  2. 2 ゆっくり呼吸をしながら腰が反らないようにして、お尻、骨盤の順番に持ち上げます。そのまま5秒キープします
  3. 3 ゆっくり1の状態に戻ります※ 10回を2セット



健康のためにウォーキングをしている人は多いのですが、ウォーキングについては、いくつか注意点があると大嶋先生は言います。

「毎日たくさん歩くことで筋力がつくと誤解されている方がいますが、残念ながら歩くことだけでは効率的に筋力をつけることはできません。また、歩く場所が土の上であればクッション性はありますが、硬いコンクリートの上を歩く、走るといった行為は荷重関節(体重がかかる関節)にとって良いことはひとつもありません。荷重関節に疾患がある人がウォーキングを習慣にしてしまうと悪化するだけです。ウォーキングをする場合は、靴底のクッション性に優れた運動靴を履いたうえで、歩く時間を調節しながら行わないと、百害あって一利なしということになりかねません。筋力を鍛えるのであれば、室内で上記のような運動を行う方が効果的です」(大嶋先生)。

ウォーキングをする際、靴下は必ず履くこと。シューズは荷重関節への負荷を少しでもやわらげるために、できれば専用のシューズが望ましいです。これから購入する場合は、下記のポイントを参考に靴を選ぶとよいでしょう。

シューズを選ぶときのポイント

  1. 1 足にフィットするサイズを選ぶ
  2. 2 つま先に少し余裕があるもの
  3. 3 かかとのクッション性が高いもの
  4. 4 靴底が厚く、柔軟性があるもの


股関節は立つ・歩く・座るといった動作をするときの“要”となる関節で、常に大きな負担がかかっています。
痛みの症状として出やすい腰や膝よりもかかる負荷が大きいので、それだけ痛みやすい関節であると言えます。股関節のトラブルのなかで最も多いのが「変形性股関節症」。日本人は欧米に比べて『寛骨臼形成不全』の人が多く、8~9割がこれに該当し患者の約9割が女性です。また「先天性股関節脱臼」も、日本人の女性に多いのが特徴です。その他にも股関節の主な病気には、「大腿骨頭壊死症」や「関節リウマチ」があります。

変形性股関節症の治療の基本となるのは、症状の進行を抑える「保存療法」です。痛みを軽減するために日常生活のなかで、股関節への負担を減らす生活術と、股関節の動きをスムーズにするための運動療法が基本となります。痛みの強さや股関節の変形の進み具合によっては手術を選択します。痛みや違和感がある場合は早めに受診をし、今後、手術を回避するにはどうすれば良いのかということを、医者と一緒に考えていくことが重要です。

股関節痛を予防・改善するには「適正体重を維持すること」と「筋肉を鍛えること」が不可欠です。
BMIを参考に体重をコントロールして肥満を防ぐとともに、プールで水中運動を行う、または、室内の運動で効率的に筋肉を鍛えましょう。

取材・文/高橋晴美

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取材協力・監修者プロフィール
大嶋浩文
NTT東日本関東病院 人工関節センター長
2004年 弘前大学医学部卒業、JR東京総合病院、心身障害児総合医療療育センター、東京都立広尾病院、東京逓信病院、東京大学医学部附属病院を経て現在に至る。東京大学病院で、人工股関節の研究・開発・普及にも携わってきた。
NTT東日本関東病院

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