股関節の動きが硬いとどうなる?腰痛・股関節痛を防ぐストレッチ

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股関節が硬いと、腰や股関節の痛みにつながることがあります。それだけでなく、他にもさまざまなデメリットがありそうです。そこで、股関節のケアや治療に詳しい松浦整形外科内科の井上留美子院長に、詳しい話を聞きました。股関節の骨格や筋肉といった基本的な構造や、痛みに関する病気の症状や治療法などの知識を頭に入れておきましょう。腰痛や股関節痛を防ぐストレッチも、ぜひ覚えて習慣づけてくださいね。

目次

 

股関節の構造を覚えておきましょう

股関節は上半身と下半身をつなぐ、人体で最も大きな関節です。大腿骨(だいたいこつ)の上端にある骨頭(こっとう)と呼ばれる部分が球状になっており、表面を軟骨が覆っています。一方、骨盤の両側には大きな寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれる穴があいています。大腿骨の丸い骨頭が、この穴にスッポリとはまりこんで股関節を形成しています。

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股関節には、普通に歩くだけでも体重の3~4倍の力がかかると言われています。この力を支えるために、筋肉や腱などで股関節全体が覆われており、回すように動かすことで前後左右斜めと自在に動かすことが可能に。歩く、走る、しゃがむ、ひねるといった複雑な動きも安定して行うことができるのです。

股関節を動かし、守る筋肉群

股関節の機能は、実に多くの筋肉によってサポートされています。股関節を動かすだけでなく、守る役割もあります。とりわけ重要な筋肉を紹介します。

・腸腰筋群(ちょうようきんぐん)……背骨、骨盤、大腿骨をつなぐ筋肉。「大腰筋」という大きな筋肉と「腸骨筋」という短い筋肉の2つから構成されています。太ももを持ち上げて、股関節を屈曲させるのに重要。前かがみ、姿勢の保持にも使われます。

・大臀筋(だいでんきん)……おしりの一番大きい筋肉。股関節の伸展、外旋(がいせん)、外転に関わり、足を付け根から後方へ振る、足を外側に開く・ひねるときに働いています。

・中臀筋(ちゅうでんきん)……おしりの横側にある筋肉。脚を横に上げたり、股関節を支えたりします。骨盤と大腿骨を固定する重要な働きがあり、特に歩くとき、脚を上げた瞬間に股関節を固定し、骨盤が下がらないようにしています。

・大腿四頭筋(だいたいしとうきん)……大腿直筋、内側広筋、外側広筋、中間広筋によって構成される、太ももの前面にある4つの筋肉群。股関節を曲げて膝を伸ばす、大きな筋肉です。

・内転筋(ないてんきん)……恥骨筋・大内転筋・長内転筋・短内転筋・薄筋(はっきん)によって構成される筋肉の集合です。足を閉じる、左右の脚で物を挟むときなどに使われます。

股関節が硬いのは中高年男性に多い

「股関節が硬い人は、内転筋が硬いことを訴えている人が多いです。中高年の男性に多く見られ、主に加齢が影響しています。一方で、生まれ持った骨格の影響で股関節が硬い人もいます。そのような人は、たとえば床に座って大きく脚を開こうとすると、骨同士が当たって十分な開脚ができないといったことがあります。

“もともと股関節が硬い骨格か”ということは、レントゲン撮影をしないとわかりません。股関節の形は非常に個人差があるので、『開脚やあぐらができないから、柔軟にしなければ』と無理をすると、変形するなどの可能性があるので注意が必要です」と井上先生は話します。

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股関節が硬いとこんなデメリットが

股関節が硬いと、次のようなさまざまなデメリットが出てきます。「今はそれほど感じない」といった人でも、今後リスクは高くなるでしょう。

  • ・股関節痛
  • ・腰痛
  • ・肩こり
  • ・姿勢が悪くなる
  • ・歩行への影響
  • ・運動をしているときにケガをしやすい
  • ・代謝が低下して太りやすくなる

など

股関節の柔軟性をセルフチェックしよう

股関節の柔軟性は、自分ではなかなかわかりにくいものです。井上先生に、セルフチェックの方法を教えていただきました。トライしてみてください!

セルフチェック1 足裏を合わせたとき、膝が床から20cm以内

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床に座って両膝を曲げ、両かかとを骨盤の方へ引き寄せて両足の裏を合わせます。膝の位置が床から20cm以内になればOK。ただし、左右の高さが違う場合はゆがみが隠れている可能性も。

セルフチェック2 90度以上開脚できる

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床に座って開脚をしたとき、両脚を90度以上に開ければOK。

セルフチェック1と2が両方ともクリアできなかったり、左右差があってバランスが悪かったりするときは、股関節が硬い、または不具合がある可能性があります。

股関節を柔らかくするストレッチ

セルフチェックで「股関節が硬い」と思ったら、ストレッチにトライしてみましょう。井上先生に、おすすめのストレッチを紹介していただきました。腰痛や股関節痛を予防するためにも、毎日行うように習慣づけてください。

内転筋のストレッチ

太ももの内側を押すと、効率よく内転筋が刺激されて柔軟性を高めます。

  • 1.床に座り両脚を伸ばす。左足を腰へ引き寄せる
  • 2.左太ももの内側に両手を置き、体重を軽くかける要領で15回ほど押す

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  • 3.左足を戻し、右足も同様に行う
  • 4.1~3を3回繰り返す

 

大腿四頭筋のストレッチ

脚の付け根や太ももの前側の筋肉が、刺激されていることを感じながら行うとよいでしょう。背中を丸めないように注意してください。転倒に注意して、必ず片手で身体を支えながら行います。

  • 1.壁の前に立つ。腰高の机やテーブルなどでもOK
  • 2.右手を壁について、身体を安定させる
  • 3.膝を後ろに曲げ、左手で左足の甲を持つ

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  • 4.太もも前側が伸びているのを感じながら15秒キープ
  • 5.ゆっくりと元に戻し、右足も同様に行う
  • 6.1~5を3回繰り返す

「ストレッチは、血流がよいときに行わないと逆に筋肉を傷めてしまうことがあります。入浴後など、身体が温かくなって血行が促進されているときに行うことがおすすめです」(井上先生)

意外! 股関節周囲の筋力をつける「貧乏ゆすり」

ストレッチに次いで、重要なのが筋力アップをはかることです。「股関節周囲の筋力をつけるのに、最近注目されているのが”貧乏ゆすり”です」と井上先生は話します。一般的に「行儀が悪い」とされ、あまり良いと思われない貧乏ゆすり。しかし、別名「ジグリング」と呼ばれ、関節に負荷をかけずに足を小刻みに動かす摩擦運動という一面もあるのです。

股関節周辺の筋肉を継続的に小刻みに動かすと、血流がよくなることや、軟骨に栄養を供給する関節液の循環をよくすることで、軟骨の生成が促されると考えられています。その結果、股関節の痛みの軽減や可動域が広くなることなどが期待できます。あまり力を入れず、リラックスして行いましょう。

貧乏ゆすりの方法

・イスに腰かけて、つま先を床につけたまま、かかとを繰り返し上下に動かす

「貧乏ゆすりを、30秒くらい行うのが目安です。朝食を食べる前にテーブルに座って行ってみると、よい朝習慣になるのでは。30秒という短時間なので気軽にでき、テレビCMの間だけなど、自分ルールを決めて楽しく行っている人もいます」(井上先生)

井上先生によると、おへそを前に突き出すイメージで、「骨盤を立てる・寝かす」動作を繰り返すのもおすすめだと言います。

運動も積極的に行い、筋力アップを

股関節の柔軟性を高めて腰痛や股関節痛を予防するためには、日常生活に運動を取り入れて筋力アップをはかることも大切です。

  • ・水中ウォーキング
  • ・自転車

などは、股関節に負荷があまりかからない運動です。特に水中ウォーキングは、水の浮力で股関節への負担を減らし、陸上ではやりにくい運動が比較的ラク。股関節だけでなく、全身をバランスよく動かせるので、効率よく筋力や持久力アップができます。「これから新しく運動を始めたい」という人は、選択肢のひとつにしてみてはいかがでしょう。

病気が隠れている? 不安な股関節の痛み

日常生活でさまざまな負担がかかっている股関節で、痛みを抱えている人は少なくありません。股関節の痛みに関して、病気の可能性を示すサインがあります。

  • ・あぐらの姿勢をすると股関節が痛い
  • ・片脚で立つと、立っている側の股関節が痛い
  • ・階段を上るときに痛い
  • ・しゃがんで立つときに痛い

など

上記のサインに心当たりがあるときは痛みをがまんせず、すみやかに整形外科を受診しましょう。

股関節の痛みを伴う代表的な病気

股関節の痛みを伴う代表的な病気には、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)と関節唇損傷(かんせつしんそんしょう)があります。基本的な症状や治療法を頭に入れておきましょう。

■変形性股関節症

股関節の軟骨が徐々にすり減り、骨を含めて関節が変形し、痛みや歩行障害が起こる病気です。炎症が関節軟骨の破壊を促し、その下の骨にも変形や破壊が起こります。日本人では女性に多く、40~50代で発症する人が目立ちます。

主な原因

  • ・加齢
  • ・激しいスポーツ
  • ・重い物を持ち上げるといった身体に負担のかかる仕事
  • ・太り過ぎ
  • ・先天性股関節脱臼や先天的変形、ケガによる後遺症

主な症状

初期

  • ・立ち上がるときに痛い
  • ・歩き始めたときに痛い
  • ・階段を上り下りするときに痛い

など

進行期

  • ・歩いているときに常に痛みを感じる
  • ・座っているときに痛みや違和感がある
  • ・寝ているときに痛くて目が覚める

など

症状が進行すると、股関節の可動域が狭くなりスムーズに動かせなくなります。靴下の脱ぎ履きや爪切りなど、ちょっとした日常動作が難しくなることも少なくありません。また、痛みが強くなると歩き方に影響が出ることもあります。

特徴的な歩き方

  • ・痛みのある脚を引きずる
  • ・左右へ身体を揺らす
  • ・痛みのある方の骨盤が下がり、上半身が傾いている
  • ・脚を大きく踏み出すことができず、小股歩きになる

 

股関節の負担を減らす日常生活の工夫

股関節の痛みを軽減し、病気の進行を遅らせるには、日常生活を見直すことが第一歩です。股関節に負担のかかるちょっとした動作や行動を減らすように心がけてください。

  • ・家具は、和式より洋式に。ちゃぶ台などの低いテーブルより、イスに座って食事ができるテーブルを使用することがベター
  • ・階段には手すりを設置する。玄関、浴室、トイレにも設置できると安心
  • ・床に布団を敷いて寝ていると、起床時の立ち上がりの動作や、布団の上げ下ろしなどが大きな負担に。毎日のことなので、ベッドを使うことがおすすめ
  • ・靴はかかとのクッション性が高いものを選ぶ
  • ・歩くときは荷物をなるべく軽くし、両手にわけて持つ
  • ・外出先で痛みが出たら、無理をせずに車で移動する
  • ・肥満は股関節に大きな負担をかけるので、太り過ぎないこと

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主な治療法

・薬物療法
消炎鎮痛剤を用いて、炎症を抑えて痛みを和らげます。湿布、内服薬、注射の3種類があります。

・運動療法
「ストレッチ」と「筋力トレーニング」を行ないます。ストレッチには、股関節の周囲にある筋肉の緊張をほぐし、リラックスさせる効果があります。股関節が正しい位置に整って動きやすくなり、可動域が広がります。

同時に、筋力トレーニングを行うことで、股関節の周囲や太もも、お尻の筋肉を鍛え、股関節のサポートに役立てます。特に股関節を支える力を強化するためには、中殿筋の筋力トレーニングは欠かせません。理学療法士などの専門家が指導して、安全に取り組みます。

・温熱療法
赤外線照射装置や電動マッサージ器などを活用し、身体を温めることで股関節周囲の血行を改善し、筋肉をほぐして痛みを和らげます。温熱療法のあとに運動療法を行うと、より効果的です。

・装具療法
股関節にかかる負担を軽くし安定させることを目的に、サポーターや杖などを利用します。装具は、股関節の状態や骨格に合ったものを選ぶ必要があるので、医師や理学療法士にアドバイスをしてもらうと安心です。

症状が進行すると、大腿骨頭の位置がずれて痛みのある方の脚が短くなり、左右で脚の長さに差が出ることも。その場合は、補高靴(ほこうくつ)を用いて高さを調節することがあります。

・手術療法
上記の治療法で症状が軽減されない場合や、病状がかなり進行している場合などに検討されます。大きくわけて、次の3つの方法があります。

  • 皮膚を大きく切開することなくできる、関節鏡を用いた「関節鏡手術」
  • 骨を切り取ってずらすなどして、変形した股関節の形を整える「骨切り術」
  • 自分の関節を人工関節に替える「人工関節置換術」

 

■関節唇損傷

股関節の使い過ぎや骨盤の形態異常により、股関節に痛みが生じる病気です。関節唇とは股関節の骨盤側にある軟骨で、ここに裂け目が入った状態が関節唇損傷です。関節唇損傷を生じると骨頭が不安定になり、次第に軟骨が破壊されて変形性股関節症になってしまうこともあります。スポーツ選手や、元々の股関節の形が原因で、関節唇損傷になりやすい人もいます。

関節唇は通常のレントゲン画像検査には映らないため、造影剤を用いた特殊な磁気共鳴画像(MRI)などを用いることが必要です。

軽症の場合、多くは、関節を深く曲げるような無理な動作を避け、自然に症状が和らぐのを待ちます。ただし、炎症を抑える鎮痛剤で痛みを緩和させることもあります。重症の場合は、関節鏡手術などが選択されます。カメラや手術器具の入る穴をそれぞれ数カ所開け、関節の動きを妨げる関節唇を切り取るものです。

■その他の、股関節の痛みを伴う主な病気

・大腿骨壊死(だいたいこつえし)……大腿骨頭は軟骨で覆われていますが、その下にある骨の組織が、壊死してつぶれてしまう病気。

・関節リウマチ……関節に慢性的な炎症が起き、やがて関節の破壊が進みます。

・化膿性関節炎(かのうせいかんせつえん)……なんらかの理由で関節に病原体が入り込み、痛みや腫れなどが起こる感染症。黄色ブドウ球菌が原因菌としてよく挙げられます。

股関節に違和感や痛みが現れたときは、「そのうち治るだろう」と思って放置し悪化させてしまうことがよくあります。気になる症状があれば、すぐに受診してください。

身近なホームドクターを見つけましょう

年齢を重ねるにしたがって、日常生活で酷使される股関節に違和感や不具合が現れるのは当然と言えるかも知れません。そのような状況を見越して、「ぜひ、かかりつけの整形外科を見つけてください」と井上先生はアドバイスします。

股関節痛や腰痛予防・改善にはストレッチや筋力トレーニングの両方が欠かせませんが、「筋力トレーニングをきちんとやってください」と伝えると、「ストレッチをやっているので大丈夫」と言う患者さんも珍しくないと言います。そんなとき、ストレッチと筋力トレーニングの違いを丁寧に説明してくれるような、対話を大切にしてくれるホームドクターがいると安心です。

「長くお付き合いをして患者さんのことをよく知り、じっくりと話を聞いて痛みの原因を探ることがとても重要だと思っています。ちょっとした悩みや疑問など何でも相談できて、患者さんのことを上手に導いてくれる医師が身近にいるとよいですね。股関節が硬いことで不都合があれば、積極的に相談してみましょう。違和感や痛みがあれば、早いうちに受診するほど改善が期待できます」

取材・文/内藤綾子

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取材・監修者プロフィール
井上留美子(いのうえるみこ)
松浦整形外科内科院長
聖マリアンナ医科大学卒業。長男出産後に父親のクリニック「松浦整形外科」の院長となる。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。整形外科ヨガ事務局代表。
松浦整形外科

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